第2話 隣の委員長

 2年A組教室。去年より一階だけ高い、去年と同じ場所の教室は、扉をぴっちりと閉ざしていた。

 詰襟に指をかけ、ホックが留まっていることを確かめる。

 いつも通りだ。この爽やかな朝も、いつもの続き。目の前の引き戸もまた、いつも通りに抵抗なく道を空けた。


 無人の教室は見知った構造で、ただ窓だけが違った。先月までよく見ていた松の枝はなく、ひたすらに明るい蒼。まぶしさに立ち止まると、バックパック越しに、とすん、と衝撃。

 

「わぷ。あ、ゴメン」

「いや、こちらこそ。妙なところで止まってごめん」

 

 半身で振り返ると、女子生徒が欠伸を手で隠しながら立っていた。焦げ茶のくせっ毛ボブ越しの大きな目。涙で揺れる虹彩がきゅっと、映り込む空が絞られていく。

 

「あ、委員長でしょ?有名人」

「合ってるけど……クラスメイトからその呼ばれ方は勘弁して欲しい。小川だ。よろしく」

「ウチは佐々木ひすい。よろしくね〜委員長」

 

 手をひらひらさせた佐々木の髪が鼻先を掠める。おや、名乗った意味なくないか?

 

「よし、一番乗り!」

 

 ニカッ、なんて擬態語が似合う顔で振り返り、教壇にトッ、と跳び乗った。

 

「小川、なに?下の名前」

 

 俺より5センチ高くなった目線を屈んで合わせながら佐々木が問うてくる。

 

たつきだ。小川樹」

「そ、よろしくね、委員長」

 

 やはり、名乗った意味がない。人の行動には意味があって欲しいのだが。

 

 別にどうでもよかった。

 黒板に貼られた座席表をじっと眺める横顔しか見えていない俺こそ、どうやら無意味に、どうしようもなく、一目惚れというヤツをしているようだからだ。


「あ、委員長隣の席じゃん」

 

 既に歩き出す佐々木が手招きする。ぬいスト付きスクールバッグの揺れが中身の無さを証明している。


「マジか。どっちの隣?」

「アレ、どっちだっけ」


 お互い肩をすくめて、カラカラと笑う。見慣れた『小川樹』の左に『佐々木翠』を見つけた。

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