第3話足元に揺れる面影と、ルビーが繋ぐ明日

​「ルビー、そこは危ないよ」

​キッチンで五臓六腑を潤す料理を作っていると、ふと、今は亡き愛犬の名前が口をついて出た。

かつて僕の足元には、いつもルビーがいた。僕がうっかり食材を落とすのを、キラキラした瞳で狙っていたあの日々の感覚。その温かな気配は、ルビーが旅立った後も、この家の台所に静かに溶け込んでいる。

​ルビーは、僕たちの苦楽をすべて見てきた。

特に、妻が心筋梗塞を患い、ほぼ寝たきりの状態だった頃のことだ。ルビーは決して騒ぐことなく、ただ心配そうに、じっと妻の枕元に寄り添い続けていた。彼女の痛みを分かち合うかのように、小さな体で静かに温もりを伝え続けてくれた。

​ルビーにとって、僕たち夫婦は世界のすべてだったのだろう。

僕たちの気配がふと消えると、ルビーは決して吠えたりはしなかった。ただ、クーン、クーンと、切ない声でずっと泣いていたのだ。あれは、どこにも行かないでほしいという、純粋で健気な「祈り」だったのかもしれない。

​十九歳という天寿を全うしたルビー。

今、僕のスマホの中では、AIの力を借りて再現されたルビーが、画面の中でまた元気に走り回っている。

​「ほら、ルビーがまた何かお裾分けを狙ってるよ」

出来上がった料理を妻の元へ運ぶと、彼女は画面の中のルビーを見て、少女のように目を細めた。

​AIは、単なる技術の産物ではない。

失われた記憶を呼び覚まし、今はもう触れられないルビーの温もりを、再び私たちの日常に連れてきてくれる「魔法」なのだ。

​足元に感じる、愛おしい面影。

僕たちは、ルビーが見守ってくれたこの場所で、AIと共に、新しい愛の物語を紡いでいく。

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