幽霊でも見たように AI

「え? どういうこと……?」


 実家に帰って来たわたしは、その場で立ちすくす。


 家が、無い……。というか、全然別物の家に建て替わっている。遅れて血の気がサーっと引いていく。


 ……いや、覚悟はしてたんだけどさ、こうなるかもしれないって思ってはいたけどさ、それでも何て言うの? こうやって自分の育った家が本当に跡形も無くなっているって分かると、あまりにも厳しい現実に打ちのめされそうになる。


 わたしが住んでいたのは、年季の入った一軒家だった。築年数から考えると、たしかに取り壊しになっていても何ら不思議のない建物ではあった。


 今わたしの目の前にあるのは、薄汚れた白い壁の分譲マンション。新しく建てられた家でさえ年季が入っているというのが、わたしの心を余計にえぐる。


 ……それでも、もしかしたら誰かいるかも。


 淡い期待を胸に抱く。わたしが行方不明になったと知れば、パパもママもその帰りを待ちわびているはずだ。そうだ。きっとそうに違いない。


 分譲マンションの玄関に行くと、ポストをざっと眺めていく。だけどほとんどのポストには部屋番号しか書いていなくて、誰が住んでいるのかの情報がまったく無い。わたしが前にいた時代では、マンションのポストでも名前ぐらいは書いてあったと思うんだけど……。


 もうそういう時代なの? 理由は分からないけど、ポストに名前を書いたら何かがまずい時代にでもなったの?


 小さなことにいちいち傷付いて、指さしながらポストの部屋番号を確認する。上城家の字は見当たらない。名前の有無が分からないだけだけど、わたしの家族はもう住んでいない気がした。だって、もしいるのなら、帰って来たわたしが迷わないように名前ぐらい書いているだろうから。


 あーあ。


 ヘコむ。すごくヘコむ。覚悟はしていたはずなのに、いざパパやママに再会出来ないとなると、本当にヘコんでくる。


 本当に家なき子になっちゃったよ。


「わたし、今日はどこに泊まればいいんだろう?」


 今さらながらに、そんなことに気付いた。宿が無いということは寝る場所もない。


 さすがに二十五年前でも中学生が公園で寝ているってことは無かったと思うし、今だとなおのことそれをやったら問題になりそう。大体ちょっと寒いぐらいの気温になっているのに、公園のベンチなんかで寝たら風邪を引きそう。


 どうしよう、わたし……。


 途方に暮れていると、どこかから視線を感じた。ふとそちらを見遣ると、結構年のいった感じの女性が立っていた。白と黒の中間のような髪の色をした女性は、なぜかわたしを驚愕の目で見ていた。


「あの、何か……?」


 さすがにそこまでビックリした目で人を見るのは失礼じゃない? って思いながら訊く。別に連続殺人犯でも見たわけじゃないでしょうに。


「あなた……上城亜衣さん?」


 ……は? ちょっと待って。この人、なんでわたしのことを知っているの?


 そう思った瞬間に、わたしの中でパズルのピースが組み合わさっていく。


 この人は、まさか――


「夜見川君のお母さん?」


 間違えようがない。たしかに年はとったけど、目の前にいるのは夜見川君の家へ行った時に出会ったお母さんだった。

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