帰る場所があること AI

 やっぱり、何かおかしいよね。


 分かってはいたことだけど、最初から最後まで違和感が拭えなかった。まるで、わたしだけが竜宮城に迷い込んで、その間に猛烈なスピードで時間が過ぎていった感じ。


 ……っていうか、二人の子供ってわたしと同い年なの?


 いや、わたしが本当は四十歳なんだろうけどさ。それでも、峠の森をさまよっている間にそんなに長い時間が経過したの? そんなことってありえる?


 うわーショック。そりゃ、誰だって年は取るんだけどさ。みんなが青春を謳歌していた間に、わたしは変な森をさまよって年だけ食ってたのか。理不尽すぎる……。


 でもさ、色々とおかしいよね。まず、なんでわたしだけ老けてないの? って話。志穂ちゃんや竹川君はしっかり年を取っているのに、わたしだけ若いままって絶対におかしいよね。


 それに二十五年も経ったせいか、誰もポケベルなんて使ってないし。今はスマホって呼ばれるケータイがあるの? もう、若いのにまったく付いていけないよ。これじゃあわたしが本当にオバさんみたいじゃない。


 いや、でも冷静にならないといけないよね。


 今歩いている世界には色々とつじつまの合わないことはあるけど、ひとまずわたしはここに存在出来ている。それだけでもありがたいと思うしかない。


 ……そうだ。家族に会いに行こう。実家に行けばパパもママもいるじゃない。行方不明になっていた人間が帰ってくるんだから絶対に大騒ぎになるだろうけど、嬉しい方の大騒ぎならいいじゃない。


 そうだ、そうしよう。


 急にいなくなったから間違いなく怒られるだろうけど、今日ぐらいは我慢して、また大好きなハンバーグでも作ってもらおう。いや、わたしが作ってごちそうする方かな?


 とにかく帰ろう。やっぱり帰る場所があるっていいな。


 ついさっきまで意気消沈していたのに、わたしは急に元気を取り戻していた。

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