思い出のペンダントを探しに AI

 最高の思い出になるはずが、一瞬で人生最悪の日に変わる。ありふれた、どこでも聞くような話。それでも、それがいざ自分の身に起こるとなると、受け入れるのが難しかった。


 夜の峠に流れ星を見に行ったわたし達は、酒気帯び運転で暴走した車に連続して轢かれた。


 わたしは一命をとりとめたけど、夜見川君は……。


 しばらくわたしは意識の無いまま病院のベッドで眠っていて、目覚めたら悲しい結末を聞かされた。


 ずいぶんと長いこと眠っていたようで、その間に夜見川君の葬儀も終わっていたみたい。どちらにせよ、わたしがその場にいたら取り乱さずにいられたか分からない。


 無意識の間に、色んな人の声が聞こえた。それは両親だったり、竹川君や志穂ちゃんをはじめとしたクラスメイトの言葉だった。幽体離脱でもしていたのか、お経の声も聞こえた気がした。わたしも無意識に夜見川君のお葬式に参加していたのだろうか。


 みんながお葬式の途中で泣きだして、一緒に泣いてあげたいけどそれも叶わなくて、夜見川君が眠っているわたしに話しかけてくれないのが悲しかった。彼が声をかけてくれたら、わたしは白雪姫みたいに目を開けただろうに。


 だけど、彼はもういない。どこにもいない。真っ暗な闇で佇んで、それだけははっきりと分かっていた。


 頬が涙を伝う……はずなのにその感触がない。人間、あまりにも悲しいことがあると感情が消え失せるらしい。


 それは心が壊れてしまわないように取られる措置で、逆に言えば、そうでもしないとわたしの心は砕け散ってしまうということなんだろう。そう考えると、まったく異論はない。


 わたしが目覚めた後、家族や友達たちは急によそよそしくなった。話しかけても無気力なまま返事をしなくなり、どこか心ここにあらずといった風に一見は以前と変わらない生活をしている。なんだか、わたしが彼らの人生を破壊してしまったようで申し訳なくなった。


 竹川君と志穂ちゃんとの関係も変わった。わたし達は一緒には帰らなくなり、竹川君と志穂ちゃんが一緒に下校するのを遠くから眺めていることも増えるようになった。前とは違って夜見川君がいなかった分、それがとても寂しく感じられた。


 もうすぐ冬を迎える。これからクリスマスが来て、あの二人は幸せな夜を過ごすのだろうか。別にそれは構わないのだけど、わたしのせいで二人が気を遣ってしまうのなら、それはそれで嫌だなとも思う。


 わたしは胸のペンダントを握る。あの時、四人お揃いで持った思い出の品。これさえあれば、わたし達の仲を繋ぎとめていてくれる気がした。


 ……と、ここでわたしはあることに思い当たる。


 そう言えば、夜見川君のペンダントはどうしたのだろう?


 ペンダントを一緒に火葬したとは聞いていない。そうなると、もしかしたら事故に遭った際に峠で落としたのかもしれない。


 それは困る。あのペンダントが無いと、夜見川君がわたしを見つけられないじゃないか。ひたすら無気力だったわたしの中で、ふいに焦燥感が沸き起こる。


 夜見川君と過ごした、思い出の日々を振り返る。


 深夜の肝試しに、下校時の夕暮れ。志穂ちゃんの家でやった王様ゲーム。流れ星を眺めた夜。月に捧げた祈り。どれも一つ一つが、わたしにとって大切な思い出だった。


 だから、あのペンダントも……彼のもとへ返してあげたい。大人にとってはただのガラクタでも、わたしにとっては生涯持ち続けると誓った宝物だ。夜見川君がどう思っているかは知らないけど、彼にも思い出の品は持っていてもらいたい。


 ――峠へ、行こう。


 わたしの心はすでに決まっていた。


 思い出の場所でもあり、トラウマだらけの地でもあるけど、それでもわたしは峠にペンダントを探しに行こうと思った。


 そうすることに何の意味があるのかも分からない。それでも、そうすることが夜見川君に対して誠意を示す行為のような気がした。


 そうと分かれば迷う必要なんかない。


 わたしは今日、あの峠にもう一度行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る