甘くてチクチクするような胸の痛み AI

 わたし達は学校の図書室で、夜見川君と一緒に本を読んでいた。付き合ってから一週間経ったけど、まだぎこちなさが残ってる。でも手を繋ぐのは自然になってきて、ちょっとドキドキするだけで済むようになった。


 夜見川君は本好きなので、図書室通いをよくしているそうだった。わたしも勉強がてらに付き合って、静かな図書室で撫でてほしい猫みたいにピッタリとくっついている。


 志穂ちゃんと竹川君はいない。別々のカップルが成立したということもあって、最近だと四人一緒にいるよりも、それぞれのカップルが二人でいる時間を大事にしている感じ。まあ、趣味も考え方も違う四人だからね。逆に今まではよく一緒にいられたよね。


 そういうわけで今日も夜見川君と二人きり。とは言っても、図書室には他の生徒もいるからあんまりイチャイチャ出来ないけど。


「上城、ちょっと見てほしい本がある」


 夜見川君が棚から本を抜いて、わたしに手渡す。宇宙の本だ。ページをめくると、星の写真がいっぱいあった。流星群の写真を引き伸ばしたものがあって、素人のわたしにとってもすごく幻想的な世界に見えた。


「綺麗だね」

「だろ? 近々、ペルセウス流星群っていうのが見られるようになる」

「ペルセウス流星群?」

「ああ、文字通り流れ星がたくさん見られる流星群で、年間でも一二を争う数の流星が見られるらしい」


 流れ星って言われると、消えてしまう前に願い事を言い切ると、その願いが叶うって話を思い出す。特に女の子にとっては、とってもロマンチックなイベントだ。


 わたしの反応を見ながら夜見川君が口を開く。心持ち、どこか照れ臭そうだった。


「ペルセウス流星群、来週が見ごろだってさ。行くか?」

「うん、行く」


 少しも迷わずに、わたしはそう答えていた。夜見川君と行った肝試しがわたしの中で大き過ぎて、今度もきっと素敵な体験になるのは間違いないっていう確信があった。


 正直そこまで星に興味があるわけじゃないけど、夜見川君と流れ星を見に行けるっていうこと自体がわたしの中でとてもプレミア感が高く感じられた。だってこの人、ロマンチックのロの字も無いような人でしょ?


 わたしの真意はさておき、夜見川君がちょっと嬉しそうに言う。


「よし、それじゃあ来週の夜に、またあの峠で見ようか。見晴らしのいいところで、流星群を待とう」


 そんな感じで、わたし達の流星群デートは決まった。


 後から志穂ちゃんに相談したら、「なにそれ超ロマンチック! もうそのままの勢いでチューしちゃいなよ!」って大喜びだったけど、まさか既にキスしてるとまでは思ってないんだろうね。まあ、それは黙っておこう。


 竹川君と志穂ちゃんはどこまで行っているんだろう?


 もしかしたら、キスのその先まで……?


 そう考えたら、急激に顔が熱くなった。ダメダメ、そんなことを考えちゃ。わたし達はまだ中学生。キスから先のことなんて……すっごく興味あるけど、まだダメ!


 そんなことを考えていたら、夜の峠で二人っきりのデートって、なんだかすごくエッチじゃない?


 深夜の峠で二人きり。……なんだか、その響きだけでドキドキする。


 さて、流れ星には何て頼もうか。夜見川君と、キスの先まで……? ちょっと、何を考えているの、わたしは?


 ああもう、いつからこんなことばっかり考えるようになってしまったんだろう?


 わたし達はまだ付き合ってほとんど経っていないのに。


 でもその反面、この先夜見川君以上の相手に巡り合える気もしない。そうなると、やっぱりわたしもここで覚悟を決めないといけないのだろうか?


 ふと夜見川君と目が合う。恥ずかしくて、思わず逸らしてしまった。ああ、もう。君が悪いんだよ? 君がわたしの心を乱すから、わたしはこんなに不安定なんだよ?


 そんなことを胸の内で訴えつつも、わたしはこの甘くてチクチクするような胸の痛みが決して嫌いではないのを知っていた。

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