来たる異能者

『ふあぁ〜!』

「まあ、チックったら大きなあくび!」


 マリエルの手のひらの上で起きたチックは、大きなあくびのあと、目をこすってつぶやく。


『あれ? 僕、たしかグールに⋯⋯え?』

「チック。この子が助けてくれたのよ?」


 チックは周囲を見回す。マリエルの向こうに角の生えた黒髪の頭が見えた。


 びくう! 驚きのあまり跳ね上がるものの、彼女が落ち着き払っているものだから、少し冷静になった。


 眉根を寄せて上げてを繰り返し、ひとつの結論に達した。


 考えてもわからない。


『これはどういう状況?』

「この子がグールから助けてくれたの!」

『悪魔が?』

「この子は本当に悪魔かしら? 私はそうは思わないわ」


 ぴたり、悪魔が止まる。


「どうしたのかしら?」


 悪魔が耳をヒクヒクとさせて、頭を左右に振った。


『マリエル、僕、嫌な予感がする。逃げよう!』

「まあ、たいへん! ねえ、あなた」


 マリエルの呼びかけに悪魔が振り向く。


「私を降ろしてくれるかしら?」

「うぅ?」


 マリエルは身振り手振りを加えて話すが、悪魔は首を傾げた。


『おい、マリエルを放せ!』

「⋯⋯あぅ!?」


 悪魔は言うことをきかず、マリエルを乗せたまま早足で歩いた。


 祭壇のある広場の大樹の根元に、悪魔が寝ていたのではないかと思われる樹洞があった。枯れ草が敷き詰められていて、地べたよりは柔らかだ。

 悪魔はマリエルを樹洞に放り込むと、すぐにどこかへ行った。


「え? ねえ、どこ行くの!?」

『そんなことよりま、たいへんだ!』


 悪魔がマリエルを降ろす際に、チックは高く飛んで周囲の様子を窺っていた。戻って来たチックが言うには。


『騎士だ! とっても大勢だよ。きっと君を探してる!』

「なんですって!? すぐに逃げなくっちゃ!」


 マリエルは慌てて樹洞を抜け出そうとするが、大きな岩を担いで戻ってきた悪魔に、岩で入り口を塞がれてしまった。かろうじて上部の隙間から光が入ってくる、が、抜け出せそうな隙間ではなかった。


『マリエル!』

「チック!」


 どうやらチックは外のようだ。隙間から顔を覗かせるチック。


『マリエル、君はそこにいて! 僕が戻るまで声をあげちゃいけないよ!』

「⋯⋯わかった」


 チックはウィンクをして、小さな羽をはためかせて飛んで行ってしまった。


「⋯⋯」


 外の様子が気になるマリエル。岩の隙間から外の様子が窺える。

 見ると大勢の騎士たちが周辺を囲っており、大きな声を張り上げている。


「悪魔だ! 悪魔が現れたぞ!!」

「ユミル団長を呼べ!!」


 マリエルも知っている第一騎士団団長のユミルだ。彼は怪力の異能を持っており、どんな大きな魔物も一刀両断にしてしまうのだという。


 騎士たちが左右に分かれて、大きな斧を持った大男ユミルが現れた。

 悪魔は大樹を背にしてユミルと対峙した。




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