天使を拾った悪魔

 どっ!「きゃっ!?」


 背後で音がして、振り返ろうとしたマリエル。背後に大きな浅黒い壁。硬い。硬いが手のひらに伝うぬくもりは、マリエルの知る無機質なものではない。


「うぅ⋯⋯あぅ⋯⋯」


 頭上から声がして、見上げるマリエル。


「っ!?」


 黒く垂れた髪に隠れて光る、マリエルを捉えた深紅の瞳。祭壇にいた悪魔だ。

 ごくり、つばを飲み、大きな瞳をぱちくりさせるマリエル。


 ぐあ、と大きく開いた手が顔に近づき、マリエルは思わず目を瞑った。


「⋯⋯え?」


 大きな手は、優しくマリエルの頭をひと撫ですると、マリエルを自分の背後へやった。


 悪魔はグールとはふた周りほどの上背があろうかという巨躯だ。悪魔を見上げるように顎を上げ、じり、と後退る。


 がば、と悪魔が手を振り上げると、グールはバックステップで背後に飛び、悪魔と距離をとった。しかし、ずんずんとグールとの距離を詰める。

 その存在に臆したグールはあきらめて逃げた。何度も振り返り、惜しむように。


「チック!?」


 突然の出来事にマリエルも圧倒されていたが、ふと我に返ると、地べたに横たわるチックが目に入った。


 その声に気づいた悪魔がマリエルの視線の先を見た。小さな妖精チックがその赤い瞳に映る。

 悪魔はグールが戻らないことを確認すると、のそりと動き出した。


 それを見たマリエルは、すくんで動けない足でチックのもとへ駆けようとした。が、足がもつれてしまう。


「ああっ!」


 ざざ、と湿った枯れ葉の上に倒れ込むマリエル。手を伸ばしたその先にチックがいる。


 そのチックをひょいとつまみあげた悪魔。顔に近づけてのぞき込む。


「食べちゃだめええええ!」


 絶叫にも似たマリエルの声に悪魔の視線が移る。マリエルは必死ににじり寄り、悪魔の太い足首を掴んでいた。


「だめ! 大切な友だちなの!」


 悪魔はチックのにおいを少し嗅ぐ。首を少し傾けると、またのそりと動いた。


「きゃあっ!?」


 悪魔はマリエルを抱えあげると、片手で高く抱えあげて右肩に座らせた。


「え、え? え? えええっ!?」


 ぷらり。マリエルの前にぶら下がるチック。マリエルが両手を差し出すと、その上にぽとり、と落とした。


「チック⋯⋯」


 チックの無事を確かめると、寝息が聴こえてきた。ここに来るまでに、ずっとマリエルを先導してきたのだ。きっと疲れたのだろう。

 そうすると、途端に安心感が胸を満たし「はああぁ」と大きなため息が漏れた。


 のし、のし、と悪魔の肩で揺られながら、安堵の笑みがこぼれ「ふふふ」と笑い、鈴を転がしたようなマリエルの声色が、ぴくり、悪魔の耳をくすぐった。




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