逃げた天使
マリエルは翔んだ。
分厚いローブを頭から被っているものの、彼女に羽が生えているわけではない。むろん、異能のちからは癒しだけで、飛翔のちからなどはない。
たかさは教会の塔の四階。
落ちたらただでは済まないだろう。しかし、マリエルの異能は癒しのちから。どんな怪我でも病気でも、たちまち治してしまう、癒しのちから。
すなわち⋯⋯。
あらぬ方向に折れ曲がった肢体をみずから治すマリエルであった。
「くうっ⋯⋯。死ぬかと思ったわ⋯⋯」
『普通なら死んでいるよっ!』
「うふふ♪ でも、上手く言ったわね♪」
『マリエルも無茶がすぎるよ! 心配したんだからね!』
ぷんぷんと目くじら立てて怒っているのは妖精のチック。彼はマリエルが幼い頃に大商会の会長の難病を治した際に、お礼として貰い受けたものだった。病気でふさぎがちだったマリエルを元気づけようとしたものだ。
当初、チックは鳥籠に入れられていて、観賞用としてマリエルに譲渡されたものだったが、チックを可哀想に思い、放してやろうとしたところ、マリエルに懐いてしまったのだ。
以来、マリエルの話し相手となっている。
教会の皆はマリエルはまだ眠っていると思っているだろう。つまり、明日朝までは気づかれないはずだとマリエルは考えた。
その間に可能な限り遠くへ行かなければならない。予め、明日の朝は遅く起こすように侍女には伝えている。侍女や衛兵など、他の者に責任が行かないように書き置きもして来た。少し心残りもあるが、今はとにかく──
──自由だ。
王女も聖女もとにかく窮屈で、何をするにも従者がいて、決められたことを決められた通りにしなければならない。
だが今、彼女を繋ぎ止めるものは何もない。狭い鳥籠から解き放たれた天使が、自由の翼を広げて飛び立った。
マリエルに目的がある。一度でいいから外の世界を観てみたいのと、チックを妖精の国へ帰らせてあげたいと思っている。
わかっている。いづれ見つかって教会へ連れ戻されるだろう。そして次はない。もう二度と。なので覚悟はできている。せめてそれまでは目的のために前に進もう。そう心に決めたのだ。
マリエルの体は長年運動などしてこなかったために貧弱だ。少し歩いただけで息切れがする。なので道中、何度も休息を入れながら、チックが案内する方角へとひたすら進んでいる。
『マリエル、大丈夫?』
「えへへ、大丈夫! 体の筋肉痛を癒しながら歩いてるから大丈夫だよん♪ ありがとね、チック!」
チックは魔物に遭遇しないように、慎重に、慎重に、慎重を重ねて道を選んでゆく。
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