十五年後 ─祝いの天使─

     ─ 十五年後 ─


 天使の子と呼ばれたマリエルは見目麗しく育ち、各国からの求婚が相次いでいた。しかし、身体は弱く、教会の一室で過ごすことが多かった。


 そんなマリエルに与えられた祝福とは、癒しのちから。どんな怪我も病もたちまち治してしまう、万能の効力が認められた。


 マリエルは教会に住まい、訪れる病人たちを毎日のように治していた。

 人びとはマリエルを聖女と崇め、女神の化身とまで称されるようになり、他国からも病人が殺到するようになった。

 しかし、彼女が病弱であり、あまりに無差別に治療にくるものだから、教会は法外な治療費を請求するようになった。

 とたんに客足は途絶えたが、結婚適齢期となった今、彼女を巡って政略が動き、水面下では熾烈な争いが繰り広げられている。死者も多数でているとの報告があり、マリエルはたいへん憂いているのだと云う。


「哀しいことですね」

「マリエル姫殿下。どうかなされましたか?」


 マリエルのつぶやきに側近のアゼルは訊ねた。


「私の異能は人を癒すちからだというのに、このちからを巡って死者が出ていると言うではありませんか。それはとっても哀しいことだと思いませんか? 私がいくら治しても、人が死ぬのですよ。そんなの不毛ではありませんか」

「なるほど。姫のおっしゃる通りですね。しかし、姫は異能をお持ちというだけではなく、たいへんお美しい。その能力の利権と美貌を巡って争いが起こるのも頷けるというものでしょう」

「それで人が死ぬのであれば、このちからも容姿も呪われているようなものじゃないですか。きっと『祝い』とは『のろい』と読むのでしょうね。私の身体が虚弱なのもきっとのろいのせいだわ⋯⋯」

「姫⋯⋯」


 アゼルはマリエルの近衛隊長をしている。その剣に敵うものは王国騎士団の団長クラスくらいだろう。

 しかし、第一騎士団のユミル団長はマリエルの叔父にあたるが、王族の血を引くものだ。怪力の祝福を得た彼は、他国の軍勢をも圧倒するほどの力を持っている。


「アゼル」

「は!」

「私を外の世界に連れ出してはくれませんか!?」

「っ!? それは⋯⋯」

「なりませんか?」

「私の一存では⋯⋯それに、姫は病弱です。陛下も反対されるでしょう。もし、内密に姫を連れ出したとあらば、私は死罪。私の家族も如何なる処分が下されるか⋯⋯」

「うふふ⋯⋯冗談ですよ。そんな困った顔をしないで?」


 マリエルは長いまつげをはためかせて少し笑って見せると、少しうつむき加減になり、長い髪で顔を隠すよう横を向いた。

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