第7話 熱のありか

 梓が戻り、そのまま夕食の支度になった。伊野田も手伝い、ぎこちなくも楽しい時間を過ごせたことに彼は安堵した。梓に手土産を渡し、黒澤が風呂に入っている内に二人で晩酌を始めた。


 といっても、梓は酒を控えていたため、飲んでいたのは伊野田だけだった。しかし梓との会話は楽しく、黒澤と梓の馴れ初め話を肴に、酒を飲むペースが加速した。それと比例して伊野田の緊張も解れていった。


 梓は久々の客が嬉しかったのか、愉快になっていく伊野田が興味深かったのか、どんどん酒を勧めてくる。風呂から上がった黒澤が見たのは、ベロベロに酔っぱらった伊野田だった。


 彼は黒澤に気づくと立ち上がり、梓の真似をして至極楽しそうに「トーマ」と呼んできたが、黒澤は眉間に皺を寄せて彼を引っぱたいた。伊野田はソファに転がり、仰向けのままずっと笑っていた。それを見て、黒澤も笑い出した。


「イノダくん、最初は少し緊張してたみたいだけど、案外おもしろいね」 

 梓が笑顔を向けた。

「ただの馬鹿野郎だよ」

 そう言って、黒澤は伊野田の身体を引き上げると、客間まで引きずり、ベッドに転がして電気を消した。


 夢うつつ。

 またあんな夢を見なければいいんだが。

 あんな夢? どんな夢だったか。


 暗がりの部屋、薄目を開ける。頭が回る。飲みすぎた。怒られる。

 誰に? 晶さんになら怒られてもいい。


 でもあの人には怒られたくない。

 あの目つきが悪くて、身体がデカくて、力が強くて、顔が怖くて、デカくて、訓練中は機械みたいに容赦なくて、おれの監視ばかりして、世話焼きの怖いおっさん。


 いや、怖い親父。

 いつまでも子ども扱いしてくる、怖い親父。

 一方的に連絡してくるくせに、おれからのテキストにはまだ連絡をくれない、腹立つ親父だ。なんでだよ。


 もう寒気はないが、あの熱がほしい。実感がほしい。証明がほしい。

 そして早く会って、殴ってやりたい。


 夢うつつ、思い出す。

 琴平が自分に向けていたあの熱は、いま、自分の中に確かにある。

 造られて間もない自分を、素材から変換させた熱が。

 残っている。


 だから、おれは生きている。

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