第5話 生まれ方

「もったいぶってないで、教えろ……」

 寝言を言いながら、目を覚ます。左手で頭を抱えた。右腕は、肘から下が無くなっていた。汗をかいている。溶液でないことが、夢が終わった証拠だった。嫌な夢だった。


 自分はあのような環境下で生まれたのだろうか。記憶はないが、ポッド内の液体や温度の生々しさがやけにリアルで、伊野田は胸を押さえた。確かにあんな生まれ方をすれば、自分を人間扱いしろと言う方が無理があるかもしれない。あれではまさに、生体素材だ。目的のために培養され利用されるだけの生体素材だ。


 しかし、生まれ方は選べない。自分が母体から生まれていたら、何か違っていただろうか。周囲の人間が自分に向けてきた態度が蘇り、きつく目を閉じる。


 悪意ある接触も、度を越した訓練も、非人道的な投薬も、現場での戦いも。メトロシティの喧しいネオンライトの熱でさえも。自分に浴びせられる熱の全てが不快でしかなかった。


 だがその熱に一人で耐えてきたわけではない。

 琴平がいた。彼が名前を与えたことで、自分の存在に意味が成された。そして、生きる術を叩きこんでくれた。彼が新しい熱をくれた。その熱が自分を人間に近づけた。だから、環境は厳しくとも一人ではなかった。琴平に守られていた。


 そんな彼が自分を息子と呼んだ。

 自分はどうだ。応えられているか。彼を父親と呼ぶに値する男になれているか。

 伊野田は起き上がって水を飲み、ひとつ息をする。右腕の義手を付けて、端末に手を伸ばす。


 琴平に「そっちはどうだ」とテキストを打った。数秒の間、画面を見つめたが反応は無い。笠原拓にも送るが音沙汰は無かった。伊野田は続けて晶にも「治った」と送る。するとすぐに「よかった」と返事が届く。少しだけ安心感が生まれた。会いたい。 


 リビングに向かう。まだ黒澤たちは戻っていなかった。眠ったおかげで、熱はもうない。本当に一時的な発熱だった。情けない。考えすぎて、頭がオーバーヒートしたようだ。人間ってのは面倒くさい。機械だったら再起動すれば済むし、あんな夢も見ずに済むのに。


 静かだ。夕焼けが少し眩しかった。テーブル横のラックに新聞が置いてある。読んでみようと手を伸ばすと、棚の上に置かれた写真が目についた。

 三人。中央にいる、丸くて大きな瞳の少年は見間違いようがなかった。手に取ってまじまじと見つめる。黒澤さん、今と変わんねーな。庭で笑ってる。母親にそっくりだ。父親は、この若さで既に貫禄が滲み出ている。見るからに野性的で強そうだ。性格は親父似なのかもしれない。黒澤にもこんな時代があったのかと、少しほくそ笑みつつ、羨ましさを感じながら写真を棚に戻した。

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