ハルポン5、 オリビアさん、妹さんが帰って来たんですけど!


 リビングのソファで、俺は落ち着かない時間を過ごしていた。


 オリビアさんがシャワーを浴びている。それだけで気持ちがそわそわする。


 一分一秒が長いこの時間は、想像もしていなかった展開で破られた。


「ただいま~。お姉ちゃん、今日は早いね。 ……ん?」

「え?」


 セーラー服を着た中学生くらいの女の子と目が合った瞬間、互いに石になった。

 そして……。


「お、お姉ちゃんが彼氏を連れ込んでた――!」

「わ~彼氏じゃないってば!」


「彼氏候補?」

「だから違うって!」


「じゃあ、どうして家にいるんですか?」

「一緒に下校してたら急な雨で、濡れちゃったから、お風呂をおよばれしただけだよ」


「本当に?」

「本当だよ……信じて」


「え~うそっぽ」

「確かに都合よく聞こえるかもしれないけど、本当だからね、妹さん」


「まぁいいか、初めまして。クロエ・ミサキ・パーカー、中二です」

「これは丁寧にどうも。市川湊、オリビアさんのクラスメイトです」


「じゃあ湊」

「いきなり呼び捨て!?」


「ボクのことはクロでいいよ」

「しかも愛称呼びさせるの?」


「いいじゃん。もうお互い知った同士だし」

「三分前まで君のこと何も知らなかったし、今も名前しか知らないよ」


「ボクのこと、知りたいの? でも、いきなりスリーサイズは教えられないな」

「聞いてないし」


「素直に知りたいって言ったら教えてあげたのに。代わりにお姉ちゃんのサイズだけど、上から……」


「それ、言っちゃダメぇ!」


「デカい、しまってる、デカいだよ」

「……でしょうね」


 ……ちょっとだけガッカリした。

 ほんとちょっとだけ。


「女の子にお尻が大きいって言っちゃダメだよ」

「い、言ってないからね」


「湊おもしろい~。さすがお姉ちゃんの彼氏」

「だから彼氏じゃない」


 オリビアさんのお風呂上りを待っていたら、玄関の方で物音がした。

 まだ帰ってくるはずのない妹のクロエさん(クロでいいのか)が帰ってきた。


 さすが陽キャの妹。

 オリビアさん以上にぐいぐい来る。


 容姿は姉妹だけあってよく似ている。

 背はオリビアさんより十センチほど低く、髪型はナチュラルなショートボブ。

 ヘーゼル色の瞳も同じだけど、姉よりもいたずらっ子感が強い。

 

 ……正直、油断ならない。


「そんなに警戒しないでよ~。ボクは妹として、ド陰キャ万年ネガティブなお姉ちゃんに、ようやく来た春を応援したいだけだよ」


「オリビアさんがド陰キャ? そんなわけない」


「あー。また陽キャムーブやってるんだ。要領悪いからすぐばれるのに」


「陽キャムーブ?」


「見た目は華のあるだから周りは勘違いするし、本人も見栄っ張りだし、無理して陽キャムーブして墓穴を掘る」


「……言われてみると合点がいくところがあるな」

「でしょ、と言う訳で、オリビア・ハルカ・パーカーはポンコツで危なっかしいから、湊を今日からハルポン係に任命します」


「ハルポン係!?」

「そう、ハルカポンコツのサポート係、略してハルポン係、よろしくね」


「いや、本人の承諾なく、勝手に決めるのは……」

「お姉ちゃんの返事を待ってたら、今世紀が終わるよ。はい、これボクのRIME-ID」


「……わかった」


 反論する余地なく、クロが話を進める。

 オリビアさんのIDを知らないのに、クロのIDを先にゲットしてしまった。

 

「わからないことは、何でも聞いて、雑談も全然OKだよ」

「……そうする」


 ――その時だった。


「市川君、お待たせ……って、クロ!?」

「遅、お姉ちゃん、湊を待たせ過ぎじゃない?」


「なんで、もう帰って来たの? 部活は? あと何で市川君のこと名前で!?」


「顧問の先生が用があるから、早めに終わった。湊がお姉ちゃんの彼氏なら、ボクの彼氏も同然。名前呼びくらい普通でしょ」


「普通じゃないよ、それに市川君は彼氏じゃないから!」

「じゃあ誰もいない家に連れ込んで、お風呂まで入ってナニをするつもりだったの?」


「何もしないから、雨で濡れたからシャワーを浴びただけで」

「湯上りなのに、ナチュラルメイクしてる。湊に見せるためだよね?」


「い、いいじゃん、お風呂上りにメイクしても!」

「じゃあ、湊は本当に彼氏じゃないの?」


「さっきから、そう言ってるでしょ!」

「わかった……じゃあ、ボクが湊と付き合う、ねぇ湊、いいでしょ?」


 クロを俺の横に座ると指を絡めてきた。

 ヘーゼル色の瞳は少し潤んでいるように見える。

 

 ……やばい、クロ、すっごいかわいい。

 いや、違うだろ俺。落ち着け。相手は二つ年下の女の子だ。

 

 ――ところが。

 

「だめ――! 市川君、私の部屋に行こう!」

「ちょ、オリビアさん?」


 クロと俺の手を強引に引きはがし、俺の手をとったオリビアさんが小走りで部屋に向かう。

 

 ……お風呂の次は、オリビアさんの自室。

 入って良いの?

 

 俺の意思と関係なく重要イベントを次々と消化されていった。

 

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