祝福の灯り

⭐︎Ryua⭐︎

第1話

前の商店街に、久しぶりに提灯が並んだ。

赤や白の紙が夕方の風に揺れて、まるで街そのものが深呼吸をしているみたいだった。

高校を卒業したばかりの遥は、その光景を少し離れた歩道から眺めていた。

今日は商店街の小さなパン屋「ひだまりベーカリー」の再開祝いの日だ。三年前、火事で店を失ってから、ようやくここまで来た。

「入らないの?」

声をかけてきたのは、店主の佐藤さんだった。白い粉が少し残ったエプロン姿で、以前と変わらない笑顔をしている。

「……おめでとうございます」

遥がそう言うと、佐藤さんは少し驚いたように目を丸くして、それから照れたように笑った。

「ありがとう。君も卒業だろ?それもお祝いだ」

店の中では、焼きたてのパンの匂いと、人々の笑い声が混ざり合っていた。

常連だったおばあさん、部活帰りの中学生、仕事終わりの大人たち。みんなが「よかったね」「待ってたよ」と口々に言っている。

遥はふと思い出す。

火事の日、泣きながら立ち尽くす佐藤さんに、何も声をかけられなかった自分を。

でも今は違う。

「この店、私…好きでした。だから、戻ってきてくれて嬉しいです」

その言葉に、佐藤さんは一瞬黙ってから、深くうなずいた。

「それが一番のごちそうだな」

夜になると、提灯に灯りが入り、商店街はやさしい光に包まれた。

特別なケーキも、派手な演出もない。けれど、失われた時間を取り戻すような、確かな祝福がそこにあった。

遥は紙袋に入ったパンを胸に抱きながら、ゆっくりと家路につく。

自分の新しい生活も、きっとこうして始まるのだろう。

小さくて、でも確かな灯りとともに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祝福の灯り ⭐︎Ryua⭐︎ @Ryua092138

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説