第2話 嫌です
目を開けると、白い天井があった。
……ここ、どこ。
身体が重い。喉が渇く。
「……俊ちゃん?」
返事はない。
コン、コン。
「失礼します。公安の者です」
その一言で、心臓が跳ねた。
入ってきたのは、ラフな服装の男性だった。
黒髪で、目の色だけが少し冷たい。
たぶん、この人は嘘をつかない。
「公安の梶と申します。体調はいかがですか」
説明が始まりそうな空気。
「……嫌です」
自分でも驚くくらい、即答だった。
「今、難しい話無理です。それより、俊ちゃんは?」
一瞬だけ、梶さんが黙る。
「無事です。怪我はありますが、命に別状はありません」
胸が、少しだけ軽くなった。
その直後。
「はいはい、空気重い!」
勢いよく入ってきたのは、青いポニーテールの女性だった。
「公安の本倉さおり! さおりんって呼んでね、奈津美ちゃん!」
……警察?
蒼い目をしているのに、本人はやたら軽い。
そこが一番、信用できなかった。
「梶、硬すぎ。若い子には柔らかくいこ?」
「本倉、状況を――」
「分かってるってば」
軽い口調。
でも、目は冗談じゃない。
そのとき。
「奈津美!」
俊ちゃんが駆け込んできた。
包帯が見える。顔色も悪い。
それでも、生きている。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。でも生きてる」
梶さんが言った。
「体育館で起きたのは、事故ではありません」
胸が冷える。
「現場で、赤い発光体が確認されました。鎖状のものです」
私が聞き返すと、さおりんが軽く手を挙げる。
「それ、私も見たよ」
さっきまでの軽さが消えている。
「ローブの女が出してた。梶も拘束されてた」
「……じゃあ」
「私が近づいた」
短く言う。
「壁まで飛ばしたら、鎖が消えた」
淡々としている。
でも、目は笑っていない。
「相手は逃げました」
今度は梶さんが続ける。
「つまり、終わっていません」
嫌な沈黙。
「狙いは、体育館じゃない可能性があります」
「……私たち?」
「保護が必要です」
「……嫌です」
反射で言った。
さおりんが、少しだけ声を落とす。
「分かるよ、奈津美ちゃん。でも命が先」
言い返せなかった。
「学校は個人授業になります」
「塾みたいな感覚で」
「……塾じゃなくないですか」
「授業、ちょっと変わってるけどね」
「身体を鍛える。身を守る。薬草探し。野宿」
……絶対塾じゃない。
俊ちゃんと顔を見合わせた。
言い返せない。
その日から、私たちは公安の用意した寮で暮らすことになった。
三ヶ月後。
ようやく、帰っていいと言われた。
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