第2話 役に立たないはずの才能
魔獣を倒した帰り道、
俺はずっと、背中に視線を感じていた。
「……さっきの刻印、もう一回見せて」
声をかけてきたのは、リゼアだった。
剣を肩に担ぎ、真剣な顔をしている。
「え、えっと……簡単な補助刻印です。刃の通りを、少しだけ良くするやつで……」
「“少しだけ”ね」
彼女は苦笑する。
「私の感覚だと、威力が倍以上になってた」
そんなはずはない。
俺が使える刻印は、せいぜい補助の中でも下の下だ。
刻印術は、才能がすべて。
高度な効果を出すには、複雑な術式と大量の魔力が必要になる。
俺には、そのどちらもない。
「偶然だと思います」
「……ふうん」
リゼアはそれ以上、深く聞いてこなかった。
だが、街に戻ってからも落ち着かなかった。
冒険者ギルド。
報告を終え、報酬を受け取った後。
「アルト」
今度は、別の人物が声をかけてきた。
背は低く、灰色のローブを羽織った女性。
眼鏡の奥で、知的な光を放つ瞳。
「ミュゼ・ロアン。刻印術師よ」
名前は聞いたことがある。
ギルドに出入りする、少し変わった学者だ。
「あなたが、さっきの刻印を施した張本人ね?」
「……はい」
逃げ場はなさそうだ。
「見せて」
短く言われ、革紐を差し出す。
ミュゼは刻印を一瞥すると、眉をひそめた。
「……雑」
胸が、きゅっと縮む。
「線は甘いし、魔力の流れも均一じゃない。
教本通りなら、効果は一割増しがせいぜい」
「ですよね……」
「なのに」
彼女は眼鏡を押し上げた。
「結果は、異常」
言葉が、頭に落ちてこない。
「刻印が、道具に“最適化”されてる。
剣の重心、材質、使用者の癖――
全部を考慮したみたいにね」
「そ、そんなこと……」
俺は首を振る。
考えてなんていない。
ただ、いつも通りにやっただけだ。
「無自覚、か」
ミュゼは面白そうに笑った。
「最悪ね。
自分の価値を知らない天才ほど、扱いづらいものはない」
天才。
その言葉に、強い違和感を覚える。
俺は、逃げてきただけだ。
戦えず、守れず、
だから後ろに立つことを選んだ。
「俺は……役に立ってるなら、それでいいです」
ぽつりと、そう言った。
ミュゼは少しだけ表情を和らげた。
「そう。
なら、しばらく一緒に仕事をしましょう」
「……え?」
「安心しなさい。
前に立て、なんて言わないわ」
彼女は、意味ありげに続ける。
「あなたは、支える側に向いている」
その言葉に、リゼアが視線を向けてきた。
まるで、何かを見定めるように。
俺はまだ知らない。
この“役に立つ才能”が、
どれほど危険で、
どれほど世界を揺るがすものなのかを。
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