川の畔、空の鳴動

間二郎(あいだじろう)

夢掌編 『川の畔、空の鳴動』

空の端、天地の境界線上に無数の何かが居並びそれらは鳴動と共に空を呑みながらこちらへ向かってきている。遅々としてみえるが間遠いことを鑑みればそうではないことが判る。間近に迫るほどに鳴動は増し鮮明になっていく。体躯が風を切る音、翼の羽ばたく音、鳴き声、おびただしい数のこれらが一緒くたになったのが鳴動の正体であった。幾種もの鳥が鳥を連れ連れて群れが空を覆い、全体でひとつの意志を共有しているかのように南へゆく。烏や鳩、鷲のような大鳥、頭が赤いもの青いもの、全身極彩色のもの、身体と羽の大きさからしてとても飛べないだろう外形のものも他のと同様飛翔している。点にしか見えない小さな鳥があちこちに紛れていてその一羽に意識を集中すると鳴動のなかからチュンチュンという馴染みある鳴き声が判然と浮かび聞こえて雀だろうと思った。銀河のような無限の鳥群れのなかには同じものがひとつもいないほど種々様々で、一羽一羽が軌跡に飛行機雲を置いていくため快晴の青空に幾多の白い筋ができやがて曇り空へと変貌していく。雲からは色形大きさが異なる無数の羽が朝の光のなかを舞い落ちてゆく。羽だけではない——間近まできて判ったが鳥本体もだ。鳥の身体は舞うことなく真っ直ぐに急速落下する。川に落ちて水のしぶきを上げるのもいて、水しぶきもこちらに向かってくる。「わー!」と叫んでも口から出た声は鳥群れの鳴動に掻き消されて鼓膜にまで届かない。地上を鳥と羽がばたりふわりと埋め尽くしてく。川の嵩は増して濁った水は枯死した植物のようでその濁流の内を死んだ鳥たちが過ぎてゆく。羽の雨、鳥の雨が畔に立つ私のもとまで迫ってくる、迫ってくる————

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川の畔、空の鳴動 間二郎(あいだじろう) @aidajiro_

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