第5話 退廃的な無間地獄
霧子は照れ隠しに失敗したようだった。チャンスと俺は思った。
「だってさ、霧子ってさ、キャミソールを着たまま、ホテルの従業員とかできそうじゃないか? 凛としているみたいな」
平気で大嘘を俺は吐いていた。こういう後味の悪いバカさ加減が、合コンという退廃的な無間地獄なのだろう。
マチコは何を思ったのか、ホッケの開きから、一本、一本、蜜柑の皮をむくよう小骨を取り除いていた。
「私はさ、結局なんだけど、誰かの都合でしかないよ」
愛嬌のある仕草で彼女は言った。
後はタセンがそのまま、悪の組織を演じてくれたらよいだけだった。くだらない恋の駆け引きは、こういう部分さえも他人任せなのかもしれない。
俺とタセンで酔い潰した、霧子と、まだ腹の空いてそうなマチコ、四人で生け垣に囲まれた公園を歩いていた。
「それじゃ、僕とマチコさんは、これで失礼しますね」
流石は後輩のタセン、そういうことは、きっちりしていた。
霧子は何故かしら心細そうにしていた。女の子っていうのは、こういう繊細な動物なんだろう。でも、凝視してみると、どう見ても硬い爬虫類の雌にしか思えなかった。
「公園で休んでいくか?」
俺は自動販売機から、やっぱりぬるい飲み物を二つ買って取り出した。
夜空は満天の星空が勿論、見ることができなかった。残暑の湿り気は、まるで連呼をするよう秋の気配を待ちわびていた。
「……うん」
すっかり、しおらしくなった、霧子は俺にしなだれてきた。
体中の血流が爆走するようだった。下卑た笑い声が、俺の気分を害したけれど、いよいよ目的に達したのだと思った。
「霧子、どっかで休むか?」
俺がそういうと彼女は、更に俺に体をよせてきた。人肌はやっぱり恋しい気持にさせた。
「このまま時間が止まってくれたらよいのに」
俺は初体験を前にしているのに、いよいよ、あと一押しだというのに、まったく緊張していなかった。どちらかというと、背後で暗躍する冷血漢のようだった。
ため息が出ていた。霧子は欲情するような寝息を立てはじめた。公園のベンチに座りながら、俺は何をする気力も沸かなくなっていた。
このまま、何もせず、じっと初体験を夢想してもよいかもなと俺は思った。霧子の肌のぬくもりと規則的に訪れる寝息だけが聞こえてきた。
誰も俺のことを愛してくれないと思った。誰かに大切にされたい。他の誰かに認めて欲しい。そばに霧子がいるのに、どこかにいるかもしれない誰かに抱いて欲しかった。
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