第3話 芒の符牒

「ところで何か、作戦でも練りますか?」

 タセンが他人事のよう言った。

「どういう女の子を合コンに呼んだわけ」

 すると彼は得意そうな顔をした。

「先輩、聞いて下さいよ。僕たちは、奥村一派になりすまそうとしてるんですよね。そしたら、後腐れなくやる必要がある訳じゃないですか。だって、後でバレたら怖いでしょ」

 こいつは結構、抜け目がないと俺は思った。

「あいつらの振りをするのは、俺はどうしても躊躇するんだけどな」

 タセンは心底、不思議そうな顔をした。

「どうしてですか?」

「だって、あいつらは完全な悪だろ?そんな奴らと少しでも関わるなんて、気が引けるよ」

 俺たちは、それでも今日の合コンが楽しみだった。女の子にモテるのは、きっと人生の大半を占める程の快楽なのだ。

 人生は満足をする為にある、そう思う。それは、絶対的な考える必要のない価値基準なのだ。性欲は刹那的かもしれない。あるいは、卑小な寂しくて仕方のない気分を、少しは紛らわすだろう。それを誰が責めるというのだろう。

 俺たちは不完全で、不完全だからこそ未熟なんだ。


 約束の地、居酒屋へ俺たちは到着した。蒸し暑い夏が終わろうとしていた。

「こんにちは、今日は宜しくお願いしますね」

 キャミソールを着た短髪の女の子が言った。いかにも、溌剌とした感じで好感が持てた。

「あ、僕がタセンです。今日は宜しくお願いします」

 欲望丸出しの濁りきったわざとらしさだった。

「どうして、芒なんて持っているんですか?」

 キャミソールの子が上目遣いに言った。

「これはね、俺たちの仲間として認める符牒なんだよ」

 タセンが無理して女の子を見下そうとしていた。

「芒を持っていると、どうして仲間として認められるんですか?」

「ふふふ、いいですか、僕の正体を教えてあげますね。僕の本当の名はタセン。さぁ、あなたの名前はなんですか」

 キャミソールの子は、うっとりしたような表情を浮かべた。それは、まるで漬物石を抱いて沈むような、特徴のない、のっぺりとした怪しい顔だった。

「私の名前は、霧子です」

「僕はね、仲間うちでのっぺらぼうって呼ばれているんだよ。今日はよろしくね、もう一人の子を紹介してみて」

 茶番だなと俺は思った。仲間のふりをするには、確かに都合がよいかもしれないけど、これでは女の子に正体がバレるのが時間の問題だ。

「私の名前はマチコです。ヨロシク」

 マチコは明らかにやる気に欠けていた。しかも、不必要に髪が長いのが気になるし、ちょっと枝毛が目立ち過ぎている。おそらく、肉食系女子に違いない、霧子に無理やり連れらてきたのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る