第2話 日常茶飯事
「それ、どうするんだよ?」
俺はタセンに言った。
「先輩、ちょっと待って下さいね」
タセンは何を思ったか、緑色した小川のほとりで、芒を一本ほど手折った。
「お前、何をしてんだよ?」
「どうです、風流でしょう」
タセンはにっこり微笑んだ。
「それ持って、どうするんだ」
「それは、現地へ行ってからのお楽しみです」
俺たちは停滞した緑色の小川を下流へと歩いた。
風は澱み、車は不健康な排気ガスを垂れ流していた。ときおり、奥村一派の甲高い暴走が、きれぎれに聞こえてきた。
「あいつらになりすましても大丈夫なのか?」
俺は心配になって言った。
タセンはどこ吹く風、芒を揺らしながら先導している。穂はやわらかく繊細で、はらはらと軽やかに落ちていった。
「どんな女の子でしょうね」
どうでも良い気分に俺はなっていた。足取りも重いし、っていうか合コン自体が面倒になってきた。
いつも、俺はそんなだ。今日こそラブホで初体験をする予定だったのに、もう、どうでもよくなっている。
居酒屋でお酒を無理やり呷って、バカみたいな小理屈で女の子をヨイショして、上機嫌になったと自分に思い込ませる。そんな辛さを忘れようと、またビールでも注文して、まだ飲めると豪語する。もう、そういうのはムリだ。もう、疲れた。
「どうしたんですか、先輩」
芒をふりふりしながら、タセンが無邪気に聞いてきた。
「……何でもないよ、合コン楽しみだな」
奥村一派が、また派手に内輪揉めしていた。ゲームセンターの前で、繰り広げられる殴り合いは乾燥しているよう見えた。
約束の時間に遅れそうなので、俺たちはアホらしい日常茶飯事を横目に通り過ぎた。
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