丁重な宴の後で

朱下 宣

第1話 緑色をした小川の街

 合コンへ行く途中で思った。俺は、今日こそ童貞を捨てる機会に恵まれたのではないか。


 赤蜻蛉は集団でホバリング、群生する芒が太く垂れていた。

 朝日は無駄に薄明るく、そして、秋の肌寒い風が刺すように痛かった。


「もしもし、タセン」

 つい、俺はスマホで通話をした。

「どうしたんですか、先輩」

「あのな、よく、聞けよ。今日の合コンで、俺は必ずベッドインするからな」

 タセンが電話越しにも、あんぐりするのが分かった。

「えっ、モテないキャラは卒業するんですか?」

「まぁな、そんなところだ」

 俺は生温い缶コーヒーを買った。

「で、どういう要件なんですか?」

「いいか、今日は俺のサポートに徹しろ、いいな」

 タセンは意外にも、俺に反抗的な態度をとった。

「嫌ですよ。大体、合コンをセッティングしたのは僕でしょ?」

「いいから、俺の言うことをよく聞け。今度、何かで埋め合わせをしてやるからさ」

 タセンはこう見えて、なかなか頑固なところがある、素直には従わないだろうなとは思っていた。


 俺たちはドブ臭い緑色をした小川の街で育った。そこには、奥村町長のドラ息子一派が幅を利かせていた。

 毎日、毎日、奥村町長の息子、長男の銀二が街を徘徊して、俺たち弱小市民を監視下においていた。

 恐喝(連中はこの儀式をカツアゲと呼んでいる)、強引なナンパは当然のこと、喫茶店でたむろしたり、ゲームセンターで違法薬物を公然とやっていて、厄介者以外の何者でもなかった。

 それでも、何故なのか、奥村一派は結構モテた。次男のナノなんて、隣街から見学に女の子たちがやってくるほどだった。

 極めつけ、凶悪なのは三男のチョッパーだった。徹底的な武闘派で、藪木町では、このチョッパー率いる愚連隊の喧嘩が耐えなかった。

 

 そんな暗いだけの藪木町は、沈黙の町だった。人は俯いて、下を向いて歩き、商店やスーパーは活気がなく、みんな諦めムードが漂っていた。

 ところで、三兄弟は仲が悪く、それぞれが率いる手下は、よく内輪揉めを繰り返していた。

 それでも、何故か、連中は派手にモテた。一計を案じた、タセンはこの連中になりすまして、合コンを企画したというのが、二週間も前のことだった。

 緑色をした小川は面映ゆそうに、どんよりしと停滞していた。誰も気にしない、そんなドブ川の側で俺たちは念密に、合コンの計画を練った。

 

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