第6話 図書室での巡り合いと約束と

 日曜日は朝のジョギング後、家事以外の時間は土曜に買った中学範囲の復習テキストをこなすのと、筋トレと読書の続きに時間を使った。

 そしてまた月曜日がやってくる。


 陽介が教室に入ると、すでに信司が登校していた。


「四季、おはよう」

「おはよう、星崎くん。今日はちょっと遅かったね」


 人好きのする笑顔を浮かべる信司に迎えられて、ほっこりする陽介。


(こいつ、マイナスイオン出してるんじゃないか? 凄く癒やされるんだが?)


 思わず彼の黒髪の癖っ毛をワシャワシャしたくなるのをグッとこらえて、陽介は登校が遅くなった理由を素直に話す。


「ああ、今日はいつもよりも長くジョギングしちゃったからさ」


 体力がついてきて、ついつい調子に乗って走る距離を伸ばしてしまった。

 その結果、いつもよりもアパートに戻る時間が遅くなってしまったのだ。


「お~朝、走ってるんだね……凄いなぁ……。僕は朝って苦手だからさ……」


(もちろん知ってる。ほぼ毎朝、幼馴染葉瑠香に起こしに来てもらう、古き良きエロゲ主人公だもんな)


 目の前の主人公様四季信司は朝が弱くても、美少女巨乳幼馴染が起こしに来てくれるのだから勝ち組中の勝ち組だ。

 内心でゲームでの信司の設定を再度思い出して、陽介は思わず肩をすくめる。


「まぁ、朝起きるのもジョギングするのも慣れだよ慣れ」

「そういうもんかぁ~……」


 そんな雑談をしていると担任の高梨先生が教室に入ってきたので、二人は会話を切り上げる。

 そして朝のホームルームは特に連絡事項もなく、すぐに終わったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 午前中の授業をこなし、昼休みになった。

 信司は幼馴染たち葉瑠香と奈々に拉致されるようにどこかへ連れられて行った。


(うんうん。順調に仲を深めていってる感じだな。ひとまず、ヨシッ!)


 そんなことを考えながら、陽介は自分で作った弁当をバッグから取り出す。

 元々、凝り性だったということもあり、彩りなどにこだわり始めた弁当を一人で黙々と食べる。


(うん、このきんぴらごぼう、ちゃんと味が染みてるな。昨日から下準備しておいた甲斐があったわ)


 数点、冷凍食品も使っているが、自身で作ったおかず――きんぴらごぼうとだし巻き卵、ほうれん草とベーコンのバターソテーは結構いい感じで作れていた。


 しっかりと完食して、弁当箱をバッグにしまう。


(でもなぁ、何か物足りない……あと一歩って感じがするんだよなぁ……)


 やはり独学でこれ以上のクオリティを求めるのは厳しいのだろうか。

 帰りに駅ビル内の本屋に寄って、レシピ集を買おうか。

 グルグルと考えていると、フッと妙案が浮かんだ。


(もしかしたら図書室にレシピ本があるかもしれないな。このまま教室で時間を潰すよりも本を探した方が有意義な時間になるはずだ)


 とりあえず陽介は図書室に行ってみることにしたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オリエンテーションの時の施設案内を思い出しながら、校舎の端の方を目指して歩いていき、陽介は無事に図書室にたどり着く。


(おぉっ……! 市営図書館ほどじゃないけど、やっぱ広くて立派だな)


 パッと見回しただけでも、かなりの蔵書数がありそうだ。


(レシピ本は……実用書のコーナーか? それとも料理の専門コーナーがあったりするかな? ちょっと見て回って見つからなかったらパソコンで検索すればいいか)


 ひとまずフラフラと館内を歩く。

 幸いなことに実用書の書架はすぐに見つかった。


(お、ビンゴだ! レシピ本も結構な数があるな)


 家庭料理からお菓子、フレンチにイタリアンにスペイン料理に中華料理。さらには麺の作り方の本なんかもある。


(う~ん……とりあえずは家庭料理だよな……)


 家庭料理のレシピ本は三冊。

 パラパラと中身を見て、写真が一番多く使われている一冊に決めた。


(このレシピ本を借りて、すぐに教室に戻っても別にいいけど……)


 それは勿体ない気がした陽介は、もう少し図書室を見て回ることにする。


(この辺りは歴史のコーナーか……お、城の本がある。マニアックだなぁ……まぁ、俺も城とか好きだけどさ。あ、奥の方に小説の棚があるのか)


 陽介が本で一番好きなジャンルはもちろん小説だ。

 ワクワクしながら、小説の書架群に入っていく。


(おぉ、この一角が全部、小説かぁ。……どんだけの蔵書数なんだろうな)


 図書室に毎日通っても卒業までに全部は読み切れないだろう。


(今日の気分は……冒険小説かな? う~ん、ファンタジー系も捨てがたい)


 せっかくなので小説も借りていこうと思い、ビビッとくる小説を探し始める。

 小説の書架群をうろちょろしていると、銀髪ロングの小柄な女子生徒の後ろ姿が陽介の視界に入った。


「……常陸院さん?」


 ポツリと名前を呟くと、咲月が陽介に気がつく。


「あら、星崎さんも小説を探しに?」

「おう。メインは料理のレシピ本を探しに来たんだけど、ついでに小説も借りたいなって思ってさ」

「料理の本ですか。星崎さんは料理をされるのですか?」

「ああ、するよ。っていうか一人暮らしだから、朝昼晩、全部自炊してる」

「まぁ、それは凄いですね。私も一応、家事全般は教えられていますが、普段は料理をしませんし……」

「へぇ……でも、できるんなら別にいいんじゃない?」

「そうでしょうか?」


 どこか憂いを帯びた表情を浮かべる咲月。


「そうじゃない? 一度身につけた技能は錆びつくことはあっても、ちゃんと鍛え直せば勘を取り戻せると思うぞ」


 実際、陽介も前世での大学、社会人時代に一人暮らしで培った家事スキルを鍛え直して、今はそこそこいい感じで生活できている。


「経験を無駄にするも糧にするも、自分の受け取り方次第だと思うぞ?」

「……ふふっ、なんだか年上の方と話しているみたいですね。星崎さんは……不思議な人ですね」

「え? そ、そうかな……?」

(ちょっと語りすぎたか? いや、さすがに転生とか言っても、信じられないだろうし……まぁ、大丈夫だよな?)


 この話題を引っ張るのは得策じゃない。

 そう判断して、陽介は話題を変えることにした。


「それで小説なんだけどさ、常陸院さんのおすすめって何かある? できれば冒険小説とかファンタジー系とかがいいんだけど」

「冒険小説かファンタジー系小説ですか……。異世界ファンタジーの冒険モノとかはどうでしょう?」

「お? それ、面白そうだな」


 王道なファンタジーの匂いがして、陽介はすぐに食いついた。


「ええっと……これです」


 咲月が書架から一冊の本を抜き出し、陽介に渡す。


「へぇ……じゃあこれ、借りるわ。ありがとな」


 早速、貸し出しの手続きをしようとその場から離れようとする陽介。


「あ、あのっ!」

「ん? どうかした?」


 呼び止められて足を止める。


「えっと……よろしければ、その小説の感想を聞かせてもらえませんか?」

「それくらいなら別にいいけど……」

「……約束、ですよ?」

「おう、わかった」


 来週の月曜日の昼休みに図書室で落ち合って、咲月に小説の感想を伝える約束をしたのだった。

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前世でハマった育成系エロゲのモブキャラに転生した ~主人公ハーレムを眺めたいので、自分を育てつつ主人公をサポートします~ 秋之瀬まこと @makoto-akinose

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