第2話 入学式

 入学式の日の朝。

 おしゃれなデザインのブレザーの制服――紺色のブレザーに白色のシャツ、緑色のネクタイ。白と黒の千鳥格子模様のズボン――を着た陽介は、地図アプリを頼りに暦乃宮学園に向かった。


 特に道に迷うこともなく到着し――


(すげぇっ……! ゲームの背景グラも綺麗だったけど、生は迫力が全然違うっ!)


 前世で画面越しに見ていた暦乃宮学園の校舎を生で見て、陽介のテンションは爆上がりする。


(さすが日本有数の設備を誇る私立の学園だけのことはあるなっ!)


 とはいえ、いつまでも校門でこうして校舎を見上げているわけにもいかない。

 事前に郵送されてきていた書類に書かれていた自分のクラス――A組の教室に陽介は向かう。


 教室内は半数以上の席がすでに埋まっていた。

 陽介も指定された席に座る。


 入学式の時間がくるのをボーッと教室内を眺めながら待っていると、男子一人と女子二人の三人組が仲良く喋りながら教室に入ってきた。

 その三人を見て、陽介は目を見開く。


(うおぉっ! 主人公とヒロインたちだっ! やべぇっ、感動だっ……!!)


 ゲームの大ファンである陽介が感極まっていると、主人公が陽介の隣の席に座った。


(と、隣の席が主人公っ……!? とりあえず、挨拶くらいはしなければっ……)


 小さく息を吐いて感情を落ち着かせる。

 それから陽介は隣の席の男子生徒主人公に声を掛けた。


「初めまして、星崎陽介だ。よろしくな」

「あ、うんっ……僕は四季しき信司しんじです。こっちこそよろしくね」


 ふんわりと柔らかい笑みを浮かべて挨拶を返してくれた男子生徒――四季信司。


(デフォルトネーム、か……)


 ゲーム『フォーシーズンズ』は主人公の名前を変更できる仕様だった。

 そしてデフォルトネームが『四季信司』だ。


(ってことは四季信司は転生者とかプレイヤーキャラじゃなくて、この世界に元からいた存在ってことなのかな?)


 陽介が転生者の可能性などを考えていると、今度は信司の方から話し掛けてきた。


「あの、せっかく隣の席になったんだし、よければメッセージアプリのID、交換しない?」

「お、おお。もちろんいいぞ!」


 主人公四季信司からの嬉しい申し出に急いでスマホを取り出して、アプリを起動させてQRコードを表示させる。

 互いにQRコードを読み取り、IDの登録を済ませた。


「高校での初友人をゲットしたぜ」

「あはは、ありがと。僕もだよ」


 ニパッっと人好きのする笑顔を浮かべる信司。


(くぅっ……これがハーレムルートに到達できる主人公の笑顔主人公補正なのか!?)


 もう少し主人公信司と話してみたくて、陽介は当たり障りのない話題を振ってみた。


「四季はさっき一緒に教室に入ってきた子たちとは昔からの知り合いなのか?」


 ゲーム知識で知ってはいる。

 だがそんなことを素直に言ったら頭のおかしな奴になってしまう。


 なので、とりあえずは知らないていで訊いてみることにする。


「うん、そうだよ。一人は幼稚園に入る前からの幼馴染で、もう一人は中学から仲良くしてもらってる子だね」

「ほほ~幼馴染って実在するんだな」

「ははっ……それ、結構色んな人に言われるんだよね」


 陽介の言葉に、信司はポリポリと頬を掻いた。


(うん、知ってる。ゲーム内でモブクラスメイトに言われてたセリフだし。……って、そのモブクラスメイトって、もしかして俺なんじゃね?)


 ゲームシステムと一緒かどうかの検証や、家事などに追われていてずっと考えていなかった……というか考えないようにしていたのだが、星崎陽介という名前のキャラは『フォーシーズンズ』には出てこない。

 要するに陽介は、無もなきモブキャラである確率が大であった。


「まぁ、幼馴染がいない人間からするとそう思うもんだよ」

「みたいだね。珍しがられるのも、もう慣れたけどさ。そういう星崎くんは同じ中学から来た人はいないの?」

「あ~、俺は親の仕事の都合で、三月から学園の近所で一人暮らしを始めたんだよ。だから同中の奴らはいないな」

「へぇ、そうなんだっ。高校生で一人暮らしとか、なんか漫画とかラノベの主人公みたいだねっ」


 目をキラキラと輝かせた信司に、


(主人公はお前じゃいっ!)


 陽介は内心でツッコミを入れる。


「ははっ、一人暮らしはそんなにいいもんじゃないぞ? 家事は全部自分でやらなきゃいけないし。夜ふかしの自由はあるけど、寝坊しても起こしてくれるセーフティシステム母親もいないからなぁ」

「うっ……現実は世知辛いね」


 信司はシュン……とした表情を浮かべる。


(くっ……庇護欲をそそる子犬属性なのか? だがな、ゲームをプレイしていた俺は騙されないぞ。俺は知ってるんだからなっ! お前が毎朝、幼馴染美少女に起こしてもらってるってことをよぉっ!)


 内心で叫びながらも、少しくらいは一人暮らしのよさを伝えることにした。


「まぁな。でも、その時の気分で食べたいものが食べれるのは結構嬉しいかな? ほら、あるじゃん? 今日はチャーハンが食いたい気分だ! って時とかさ」

「あ~あるね」

「で、そういう気分の時に実家だと、母さんが作ってくれた肉ジャガが出てくるわけだよ」

「作ってもらってありがたいけど、チャーハンが食べたい気分だもんね」

「そそ。それだけは一人暮らしでよかったなぁ、って思うポイントかな?」

「なんかピンポイントだね……」

「まぁ、実際、家事とか面倒だし……。好きなものが食べられるのも嬉しいし」


 最近では習慣になってきたので面倒くささは感じなくなってきたが、最初の一週間は大変だった。


 そんなことを話していると、教室の前の扉から紺色のスーツを着たショートボブの緑髪の女性が入ってきた。

 教卓の前で立ち止まった女性が教室内をぐるりと見回して口を開く。


「よし、皆揃っているみたいですね。それでは時間になりましたので、講堂に移動します。廊下側から二列になって私についてきてください」


 おそらく担任の教師なのだろう。

 指示に従って、A組の生徒は廊下で二列になった。


 そして、おそらく担任であろうスーツの女性に先導され、講堂へと移動した。

 ゾロゾロと我らがA組から入場し、G組までの計七クラスの新入生が席に着くと、入学式が始まった。


 来賓の挨拶やらなんやらが終わり、『新入生代表、常陸院ひたちいん咲月さつき』と司会進行の教員が告げると、銀髪ロングの小柄な女子生徒が壇上に上がった。


(あれ、あの子……)


 見覚えのある銀髪美少女が暦乃宮学園の制服を身に纏い、新入生代表挨拶を始めたのだった。

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