シーン15:賽は投げられた
滝沢 蓮(たきざわ れん)
指令: ワールドシミュレータに刃向かわない
因果律信頼区間: 2.9
今日は決行日だ。朝、目を覚ました俺の心臓は既にハイペースで脈打っている。
「必ず赤城を助け出して……ワールドシミュレータを、破壊する……!」
自分にそう言い聞かせた。
ただ、この思考は既にシミュレータに読まれている。そうでないと指令書に「ワールドシミュレータに刃向かうな」なんて書かれるはずがない。
だから、作戦実行の前には、必ず芸術家と連絡を取る。シミュレータの演算が考慮していない相手と接触することで、俺の未来予知を外す。
幸い、今の俺の指数は監視対象にならないギリギリの数値だ。あと1週間後に控えた定期モニタリングを受ければ、俺は間違いなくクビになるだろう。
それだけじゃない。もしかしたら、これが外での最後の食事になるかもしれない。そう思うと、普段何気なく食べていたトーストもスクランブルエッグもベーコンも、こんなに美味しかったのかと思わされた。
社会人の戦闘服、スーツに着替えた。もうここには戻れないかもしれない、と思いながら、俺は家を出た。
俺は管理局に着いた。いつもより少しだけ重いかばんをロッカーに入れて、自分のデスクに着く。上司が俺に気づく。
「滝沢、おはよう」
「おはようございます」
俺は必死に平静を装った。というのも、赤城を助けるには――上司のカードキーが必要だからだ。機会は今ではない。
「おっ滝沢、おはよう」
杉山だ。目を細めていて、少し俺を疑っているような表情に見える。
「おはよう」
しかし、今派手に動くわけにはいかない。
午前中、俺はひたすら機会をうかがっていた。すると、思いがけずやってきた。
「ちょっとトイレでも行くかな……」
上司は、誰に言うでもなくポツリとつぶやき、席を外した。デスクには、カップに入った飲みかけのコーヒーが置かれている。
好機。
俺は、カモフラージュ用に上司のデスクに書類を持っていき、懐から粉薬を取り出す。コーヒーに注がれるサラサラとした音が、やけに大きく感じられた。コーヒーを軽く指で混ぜて、指をハンカチで拭き取った。
俺は、何事もなかったかのようにデスクに戻った。杉山はモニターにかじりついている。仕事に夢中で気づいていなかったようだ。
上司が戻ってくる。俺は仕事をしつつ、横目で上司の動きを監視する。
上司がコーヒーに口をつけた。
飲んだ直後は何ともないようだったが、5分か10分ほど経った頃だろうか。
「うーん、なんだか眠いな……滝沢、杉山、ちょっと休憩室行ってくる」
上司は、仮眠を取りに休憩室に向かうようだった。部屋を後にする上司。俺は、少しだけ間を空けてから部屋を出た。
上司は、休憩室で腕枕を作り、ぐっすり眠っていた。いい夢でも見ているのか、疲れを癒せているのか、どこか安らかな表情で寝息をたてている。せいぜい長くても20分で起きるつもりでいるんだろうが、絶対にそんな短時間では目覚めない。
俺は、上司が首から提げているカードキーに手をつける。
「……個人的な恨みはないが、寝ていたら全部終わっているから……許してくれ」
カードキーを盗み取った俺は、ジョナサンに連絡をいれる。
「俺だ、滝沢だ。準備はできた、さっそく動いてほしい」
「了解!現場をひっかき回すのは任せな!お前はお前のやりたいことに集中しろ!」
俺は、シミュレータが演算のときに想定していない存在――芸術家と接触した。これで俺の未来予知は乱れる。夜中の再スキャンまで……誰も俺の動きは読めない!
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ラプラスの檻 ツキシロ @tsuki902
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