第10話 大宴団

 それから、誠は、猪熊と顔を合わせると、目を合わせる事は出来ないが、目線を鼻の下あたりに付けて、にっこり微笑むことにした。

 猪熊は、それに対して、「気持ち悪い」と言って、嫌な顔をしてみたり、訝る様な顔をして不快感を露わにした。 

 誠は思った。

 ……そういう、反抗的な個性を持った奴なんだな、そんな猪熊でも、見捨てたりしないで、最低限、礼儀正しく振舞って、猪熊を受け入れていくことにしよう……


 その後、誠は、みんなは仲間だという意識で、誠の仲間達や、猪熊達に礼儀正しく振舞う努力を続けた。

 すると、その甲斐もあって、誠やその仲間達と、猪熊と、その仲間の軋轢が少しづつ改善していった。

 その温かさの中で、猪熊は、色々な人に、諭される様になった。猪熊は、反発しながらも、その言葉に、耳を傾けるようになって、自分が、どんなに破滅的行動をしていたのか、という事に気づいていった。


 それから、誠と誠の仲間たちは、猪熊達を抱えながら、いつものように、漬物切りの作業を、協力してやっていた。


 例外は、仲間達を、守る役目の「のぶゆん」で仲間達は、「作業をしよう」と、「のぶゆん」に、勧めない事が、暗黙の了解になっている。

 悠作は、何となくこの一件の後、ポジティブなって仲間と、前より深く、学びを通して、関わるようになって、誠は嬉しく思っていた。


 誠が、旗を振る、漬物切りの作業に、問題がなくなると、支援員さん達は、別の遠くのテーブル移っていった。

 遠くのテーブルから、支援員さん達は、時々、彼らの様子を見ている様だ。


 彼らのテーブルでは、漬物切りの作業に加わった新入りの仲間たちに、漬物切り作業の手順を説明していた。

 ただ、誠は、数ある色々な漬物切りの作業の内容を、全部知っているわけではない……。そんな時は、昔から作業をしている、光ちゃんや、綾香ちゃんに、誠は、助けを求めることが今でもある。


「この葉、腐っているんだけど、どうしたらいい?」 

「これも、脇に除いた方がいいですかね?」

すると、綾香ちゃんと、光ちゃんから、「それ、使っちゃえば……」

「そうだね、ありがとう、そうするよ……」

 誠は、そう、光ちゃんと綾香ちゃんに返事をする。

 誠は、そうやって、自分の分かる所は、新入りに説明して、誠の分からない所は、長年やって経験のある仲間の人達に、やり方を聞いて、説明してもらいながら、漬物切りの作業を進めていった。

 

 そうやって、作業のやり方を説明していくと、誠は、段々仲間たちの特徴的な動きに、余裕で対応出来るようになり、相手を知らないと云う、不安が減って、安心感が生まれると、安定的に、作業の進める事が、出来る様になっていった……。


 そんな様子を、猪熊が、じっと、敵対心をあらわにして、見つめていた。

やがて、作業について、説明することがなくなり、もっと、広範囲な仕事の連携、例えば、ホウレンソウの「声のかけ方」の作法に、及ぶようになっていた。

 激動の日々の後、誠と誠の仲間達は、たわわに実った幸せの果実を、楽しそうに収穫する。


 すると、お互いに笑顔が、あふれてきて、みんなで、楽しそうに食べ始めた。

 そして、幸せの果実のおこぼれに、猪熊達もありつく…。

 誠は、ボス・キャラには、なれなかった。

 癒しキャラにも、成れたのかも分からない……。

 誠はリサを呼んだ。

 「おおー、リサぽん、帰るぞ……」

 「あぁぃ!」

 誠は、今日の作業を終えると、リサを載せて、車を発進させた。

 二人が、帰る途中に、薄暗い空を見上げた。

 雲が切れて、太陽の光が差し込んできた……。

 「眩しい」

 寒く厳しく冬が終わり、うららかな、生命の息吹のほとばしる、春の訪れを感じた……。誠はリサと一緒に、その時代(季節)を一直線で、走り抜けて行った……。


 

















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