第6話 復活

 その頃、誠は、猪熊と反対に、自分の心の弱さに、独り密かに苦しんでいた。    

 誠は猪熊に敗れると、大切に築いてきたモノ全てを、失いない、すっかり気持ちが落ち込んでしまった。

 誠は独り寂しく冬の寒さに震えていた。寒さに耐えながら、自分の苦しみについて、あれこれ考えていた。

 誠は、自分のやりたい事や、現実では何ができるのか? 考えても、それを覆す、答えがでず、2つの狭間で、揺れて、苦しんでいた。

 ……自分は、無力な人間だ……


 誠は、深い深呼吸の後、自分の家の部屋で、コタツのツマミを回して、その中を熱くして寒さをしのぐ……。

 誠は、その後、手を伸ばして、卓上鏡で、自分の顔を見たら無精ひげが生えていて、少々疲れている様に見えた。

 誠は、その顔を見た時、過去の辛い経験を、はっきりと、思い出して消沈した。

 それは、一般社会にいた時、ルールを作る事のできる強い人間に、エデンの園から排除された経験だった。

 猪熊の背後には、何か得体のしれないプレッシャーを感じる。それはきっと、支援員さん達の様な、ルールの作れる強い人間のことだろう……。


 そういう人たちのバックにあるのは、大勢の大人であり、世の中である。

 世の中がおかしいとは思わないが、精神障碍者になって自己決定力を失った、誠の感覚では、社会人の時より、今まで生きてきた方が、生きづらさを感じる事が多い……。

 誠は、猪熊の背後にある恐怖の源泉を知っている。

 猪熊に対して、どうするかは、猪熊だけでなく、その上のルールを作れる強い人間である、支援員さん達の「容易に、知ることの出来ない考え」に影響される。

 誠は、考えた。

 猪熊に対抗した誠の力の源泉は、漬物切りの仲間たちであったが、その源泉は、猪熊とその仲間に奪われた。

 誠は認める。

 ……俺は、弱い……

 誠は猪熊との戦いで落ちぶれた、自分の事を、仲間達は蔑みの目で見て自分を、嫌らっている。

 誠は、そんな風に思って、悲痛な思いを抱いて自分の殻の中に閉じこもっていた……。


 リサは、誠の友達の悠作の所に行った。

 悠作に、誠を励ましてくれる様にお願いする為だ……。

 リサは、悠作を見つけると、強引に話し始めた。

 「悠作、マコたんを励まして……」

 悠作は、リサの強引な話に肩をすかして見せた。

 「そうね、リサポンの気持ちは、分かる…けど、これは、マコたんの問題で、僕が、どうこう言える問題ではないんだ……」

 悠作は、細い目をして、ふっと、息をついた。

 「リサポンって、誠を、愛してるんだね……」

 「はあ?」

 リサは、真っ赤な顔をした。

 「僕は、マコたんが、どんなに苦しくても、みんなの所に帰ってくる事を信じている」

 リサは言った。

 「私だって、信じている……けど……」

 悠作が見たリサは、けなげで、とても痛々しかった。


 猪熊の強さばかりが、目立つ、この頃、その真逆の誠は、毎日、悲痛な思いで、過ごしていたが、それを打ち破ったのは、意外なことが切かけだった。

 ある日の事、気持ちの読めない光ちゃんが、誠の傍に来て、小さい声で言った。

「色々教えてくれてありがとう、僕は、マコたんがいないとダメなんだ」

 光ちゃんは、確かに、自分を必要としているという趣旨のことを言った。でも、誠は、いくら考えても、必要とされていると思えない……。

「そんな筈がないよ」

 誠は、光ちゃんに、真剣に見返した。

 誠は、光ちゃん様子を見て、唐突に笑うと、光ちゃんは、誠の笑い声に釣られて「ははは」と笑った。

 誠は、光ちゃんに言う……。

「光ちゃんの好きな、テレビ番組のMステ見るよ」

「そうですか、面白いですよ」

 誠は、光ちゃんの一言で、自分は、独りじゃなかったことに気付いた。

 その事で、彼のこころは、ヒーロー惑星を離れた。


 誠と光ちゃんが、繋がると、そこを目指して綾香とリサが、集まってきた。

 リサが、誠に声をかけた。

 「マコたん、元気になった?」

 「まあね」

 リサは、元気になった誠を、心密かに喜んでいる。

 リサは、もしもの時を決めている。

 ……マコたんが、辞めたら、私も辞める……

 そんなリサの思い、誠が好きで、守りたいという気持ちが、誠と、その仲間たちにウマク伝えられない、もどかしいリサだった。

 すると、悠作は、誠に、「やあ」、「やあ」と、言いながら、照れた笑いを、浮かべながらやってきた。

 「マコたん、また一緒に、勉強しょうー」

 悠作が、誠に言った。

 「ああ」

 誠は、悠作に、にっこり笑って、答えた。

 綾香は、誠の元に集まってくる、彼の事を見て思った。

 ……貴方は、きっと、自力で、この局面を切り抜けられる、私は、貴方の理想に賭けるわ……。

 誠は、みんなの前で呟いた。

 「私が、立ち上がるのを待っていたのか?」

 悠作は、「そうだよ」と、言った。

 「リサポンも、光ちゃんも、綾香もまっていたのか?」

 リサが、みんなの代表となって、大声で言った。

 「待っていたわょ……」

 仲間たちは、にっこりと笑っている。


 誠は、遥か遠いヒーロー惑星から、凱旋した。

 誠には、心から湧き上がる、熱いものがあった。

 誠と、その仲間たちは再び結束した。

 光ちゃんは、誠の復活に、喜びを感じ「チョ―、チョー」と、言って、コブシを天に突き出した。彼らは急速に、元の勢力を取り戻していった。

 そして、前よりも更に大きな力が、そこにあった。


 「いいんですか?」

信義が猪熊に言った。

緊張感のない寅蔵は寝ている。

猪熊は、誠と誠達の変化を感じていたが、「どうせ、又、軽く潰して遣るわい」と、軽く考えて、何ら有効な手を、打つことはなかった。

「馬鹿野郎」

猪熊はクロウを、張りセンで痛めつけて、悦に浸っていた。

猪熊は、誠を甘く見ていた。

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