第4話:美術館長、ガイド役のオリキャラ精霊と異世界での新生活を始める

 狐の精霊をイメージしたキャラで、イラストアカのアイコンにするくらい一番気に入っていた。

 実際に喋れるという喜びで胸が震える。


「自分の考えたキャラと話せるなんて……嬉しくてしょうがないわ。夢でも見ているみたい……」

『ボクを作ってくれてありがとうコンよ。ボクもミオとずっとお喋りしたかったんコン』

「な、撫でてもいいかしら?」

『もちコン』


 そっとフォキシーを撫でると、ふんわりとした毛が私の手を優しく包んでくれた。

 モフモフだ!

 想像以上のモフ具合にテンションが上がり、何度も何度も撫でてしまう。

 

『ふふっ、くすぐったいコン、ミオ』

「あっ、ごめんなさい。大丈夫?」

『大丈夫コン。でも……』


 不意に、フォキシーの表情が暗くなった。

 活力あふれていた耳や尻尾は、たちまちしおしおと力なく垂れる。

 どうしたのかと心配する私に、彼は心底辛そうな様子で話し出した。


『前世でミオが苦しんでいる姿を見ていても、ボクにはどうすることもできなかったコン。紙やスマホの中から眺めることができなかったのが、本当に辛かったコンよ……。ミオが疲れて死んじゃったとき、何もできない自分がどうしようもなく悔しかったコン』


 フォキシーの目に涙が浮かぶ。

 そんなことを思ってくれていたなんて……。

 私は胸が温かさで満たされ、そのモフモフの身体をギュッと抱き締めた。


「あなたがいてくれたおかげで、私は50歳まで生きられたのよ。それに、こうして同じ世界に生きられるようになったじゃない。あなたと話せるなんて本当に夢みたい。この世界で、いつまでも一緒に暮らしましょう?」

『ミオ……大好きコン』


 フォキシーは私の胸に顔をうずめる。

 しんみりしたところで、湖畔のモナ・リザのキャプションパネルが目に入った。

 相変わらず、見知らぬ文字ばかりなのだけど……。


「あれ!? 文字が……文字が読めるわ! どうして!?」

『加護を発動したからコン。これからはずっとこの状態が維持されるから安心コンね。消費魔力も0コン』


 読んだ直後から自動的に日本語に変換されていくような、とても不思議な体験だ。

 異世界語が読めるようになってよかったぁ。

 同時に、湖畔のモナ・リザの正式な名前もわかった。


「この絵は『湖畔の微笑み』って言うんだ……。タイトルも素敵」

『【美術館長の加護】は文字だけじゃなくて、色んなことがわかるコンよ。もっと絵に意識を集中してみて?』

「うん」


 フォキシーに言われ、私は絵画全体に意識を集中する。

 直後、不思議な現象が起きた。

 素敵な人物画がだんだんと薄くなり、まっさらのキャンバスになってしまったのだ。

 混乱する間もなく、今度はイラストのタイムラプス動画みたいに一から絵の製作過程が再現され始めた。

 ラフから始まり、色が塗られ、修正を経て、どんどん完成へと近づいていく。


「えっ、こ、これはなに!? なにが起きているの!?」

『【美術館長の加護】を使うと、画材の種類や技法、絵の下に埋まった作者のサインまで読み取れちゃうコン。さらには、絵に籠められた作者の思いまで感じ取れるコン。前世でいう、光学的調査だったり、ラマン分光法みたいな材質分析までできるコンね』

「製作するとき、作者の意図した思いまでわかるなんて凄すぎる……芸術好きにはたまらない能力よ」


 他にもいろいろあるらしい加護の全容は、エリューシア様の説明通り、実際に使いながら覚えていくことにした。

 加護を使うのは一旦そこまでにして、美術館の設備確認に意識を戻す。


「フォキシー、館内の地図とか出せたりする? どんな設備なのか確認しておこうと思って」

『もちろん出せるコンけど、ミオは念じるだけで頭の中に思い浮かぶはずコン』

「念じるだけで……? さっそくやってみよう」


 地図よ!

 強く念じると、頭の中に三次元的な地図が出現した。

 青っぽい色合いでデジタル感が満載。

 現在地には人型の赤いポインターが点滅しており、私の居場所がすぐわかる。

 うわぁ、これは便利。

 リアルタイムで向きや拡大率を調整できたりするようで、地図が読めない私でも迷うことはなさそうだ。


「へぇ、この美術館は地上三階の地下一階なんだ。館長室があるのは三階だから、私たちが今いるのも三階ってことね」

『美術館のレイアウトだったり拡張は、ミオの意志でいつでも自由に変更や修正ができるコン。所蔵品の並べ替えは亜空間を経由するから、傷つけることはないコンよ。【美術館長の加護】は美術館に関することなら何でもできるコン』

「ええ、すごい。さすが異世界。運搬で傷つかないなんて大変にありがたいわ。大事な所蔵品には絶対に破損させたくないから」


 館長たるもの、所蔵品の保存と管理が最優先だ。

 ちょっとした事故で貴重な絵画や彫刻が台無しになったニュースを、前世で何度も見た。

 のんびり暮らしながらも、この美術館では事故0を目指そう。


「じゃあ、名残惜しいけど、そろそろエリューシア様のバリアの残量を確認しに行こうかな」

『地下の一番奥に行けばわかるコン』


 二階や一階の所蔵品を眺めながら地下に行く。

 ついでにトイレなどの設備も確認したら、全てデザインは中世ヨーロッパ風だけど機能は現代仕様ですごく嬉しかった。

 辿り着いた地下空間もまた、大変に広大だった。

 倉庫のような場所で、布が被せられた物が所狭しと並ぶ。


「もしかして、あれも全部所蔵品!?」

『オの言う通りコン。倉庫の所蔵品は、好きなときに展示中の物と安全に交換できるコンね。これも頭の中で念じればできるコンよ』

「そんなことまでできるんだ……女神様の加護って本当にすごい。でも、まだ全ての所蔵品を確認できていないし、とりあえずは現状維持のままでいようかな。所蔵品のリストも作ってしっかり管理しないと」

『ミオは転生してもちゃんとしてて偉いコンね。ボクも手伝うコン』


 フォキシーと話しながら地下空間の最奥に行くと、一人分の扉が現れた。

 地図上では、この部屋にエリューシア様の彫刻があるはず。


 そっと扉を開けると……スマホで自撮りしている彼女の彫刻が現れた。

 一目見て、"ローワン・フェルム"の人たちが作った物ではないとわかる。

 彫刻の下にはキャプションパネルがあり、説明書きの代わりにゲームの体力ゲージみたいな横棒が表示されている。

 今はまだ満タンに近いけど、じわじわと減りつつあった。


『これが女神様のバリアの残量コン』

「なるほど、わかりやすくていいね。補給のお金はいくらだろう……って、1ヶ月で30万ルイン!?」


 パネルに書かれたバリア代を見て驚いてしまった。

 1ヶ月で30万円の出費かぁ……。

 インフラ代は無料だからバリアの維持費だけとはいえ、なかなかに大きい金額だった。

 しばらくは貯金を切り崩すとして、美術館の黒字運営は絶対だ。


「……なんだか、のんびりスローライフするつもりが、結局また労働する流れに……」

『今度は絶対に過労死させないから安心してコン』

「ありがとう、フォキシー。とりあえず、転生できたことを伝えておこうかな。エリューシア様に電話して……あっ、お金はどこにあるんだろう」

『念じれば金庫から出せるコンよ。貨幣の単位は日本と同じコン』


 パネルの横にある投入口にお金(100ルイン)を入れたら、彫刻のスマホがプルルと鳴り始めた。

 10分100ルインとのことだ。

 ところが、呼び出し音が鳴るばかりで肝心のエリューシア様は出ない。

 お風呂にでも入っているのだろうか。

 しょうがないので、繋がった留守電に(無事に転生でき、前世の大事な友人にも会えました。また今度電話します)と入れておいた。

 ちなみに、お金は返金されなかった。


 □□□


 エリューシア様に留守電を入れたところで、私はフォキシーを抱きながら最初に目覚めた三階のあの部屋に戻った。

 テーブルの三角席札を確認すると、館長と刻まれている。

 やっぱり、ここは館長室だったんだ。

 窓から差し込む日差しは弱まり、だいぶ日が暮れてきたとわかる。

 アンティークな壁掛け時計を見ると19時過ぎだ。


「ねえ、この世界は24時間なの?」

『24時間コン。女神様は地球をモチーフにこの世界を作ったみたいで、一週間も七日で一年は12ヶ月コンね。ただ、どの月もぴったり30日コン。だから、一年は360日コン』

「そうなのね。ということは、もう夜かぁ。エリューシア様は寝泊まり可能な建物と言っていたけど、床で寝ることになりそうね。フォキシーは椅子の上で寝て。私は床で寝るわ」

『いや、一緒にベッドで寝れるコンよ。この隠し扉を開けてほしいコン』


 そう言って、フォキシーは壁際にある本棚の一冊を押した。

 すると、本棚が音もなく横にズレて、文字通り隠し扉が現れた。


「すごーい、こんな仕掛けがあったなんて!」

『ミオが喜んでくれて嬉しいコン』


 ロマン溢れる仕掛けに胸が躍る。

 自慢げなフォキシーと一緒に扉を開けると、私は衝撃のあまり呆然としてしまった。

 

「もしかして、これは……私の部屋?」


 目の前に広がるのは、前世でずっと住んでいたマンションの部屋だった。

 ちょうど、隠し扉が玄関という形だ。

 靴を脱いで恐る恐る部屋に上がる

 ダイニングやキッチン、寝室にお風呂場にトイレ……。

 ベランダはないけど間取りは私の部屋そのもので、家電もそっくりそのままある。

 はわわ、と驚く私にフォキシーが説明してくれた。


『暮らしやすいように、女神様がミオの部屋を再現してくれたコンよ。ボクが生まれた場所にまた来て感慨深いコンねぇ』

「最高すぎるよ、エリューシア様……。現代と異世界の良いとこ取りができるなんて!」

『この部屋や美術館の気温も、ミオや所蔵品が過ごしやすいように自動で設定されるコン』


 

 文明の力、万歳!

 前世の部屋を再現ということは、パソコンやスマホもあるのかと思ったけどそれはなかった。


「パソコンとかスマホはないのね」

『仕事を思い出すと嫌だろうから、ということで女神様は敢えて再現しなかったみたいコン』

「そんなことまで考えてくれたんだ、さすが女神様……」


 配慮の気持ちがとても温かい。

 ひとしきり感激したところで、先ほどから思っていた疑問をフォキシーに聞いてみた。


「そういえば、食べ物が無限に出る食糧庫はどこにあるんだろう? 地図にも載っていなかったけど」

『それはこの扉の奥にあるコン。開けてみて、ミオ』


 フォキシーは隅っこにある、落ち着いた茶色の扉を指す。

 取っ手が車のハンドルみたいになっていて、私の部屋にはなかった扉だ。


「どれどれ……うわぁ!」


 ガコッと開けて中に入ると、そこは食料庫だった。

 いくつもの棚が置かれ、お肉にお魚、お野菜とたくさんの食べ物が収納されている。


「なんて素敵な光景なの……あっ、お気に入りのお菓子やアイスまであるじゃない!」

『ミオが食べたことのある食材が全部揃っていて、賞味期限はどれも無限コン。食べると補充されるコンからね。女神様の力で、室温でも食べ物は腐らないコン』

「すごーい!」


 食費を切り詰めた身としては、この上なくありがたい倉庫だ。

 中にはお酒もあったけど私は付き合い程度しか飲まなかったし、この世界の成人は日本と同じ20歳ということなので、しばらくは飲む機会がないだろう。

 時計を見るともう夜だ。

 豚肉の野菜炒めを作ってフォキシーと一緒に食べた。


「……どう、おいしい?」

『すっごくおいしいコン! お肉の味付けは塩加減が絶妙で、柔らかくて最高コン! 野菜のシャキシャキ具合がさらに食欲をそそるコンね!』


 フォキシーはペラペラと食リポをしてくれる。

 顔の表情や声音から喜びが伝わった。

 しばし食リポをしたフォキシーは、最後に満面の笑みで言ってくれた。


『何より……ミオと同じご飯が食べられるのが本当に嬉しいコン!』

「……私も嬉しいわ!」


 噛み締めた野菜炒めからは、幸せの味がした。


 その後、入浴や着替えなど寝る準備を整え、私たちはベッドに潜り込んだ。

 慣れ親しんだベッドなのに、今日は狭く感じる。

 なぜなら……大事なフォキシーがいるから。


「お休みなさい、フォキシー」

『お休みコン。明日が来るのが、今から楽しみコンよ』


 横になると、すぐにフォキシーから可愛い寝息が聞こえ始めた。

 モフモフの頭を撫でるだけで幸せな気持ちになる。

 これからフォキシーと一緒に、美術館で第二の人生を送る……。

 たちまち、心が希望でいっぱいになった。


 私はこの世界で美術館長として、のんびり安全に芸術を楽しみながら生きていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る