第2話 魔王は死んでいた
「大陸のほぼ全土を支配した帝国は、北に蔓延る魔族を討伐するため魔王城に攻め込みました。お父様と当時皇太子だったお兄様を先頭に行く手を阻む魔族や魔物を討伐し、魔王がいる部屋に辿り着きました。そこでは激しい戦いが繰り広げられたそうです」
大陸のほとんどが帝国領なのは軍事力で制圧していった過去が窺えるし、皇族も血気盛んなようだ。帝国軍だけで魔王城を制圧しているし、本当に
「戦いの末魔王を討ち取ることに成功しましたが、お兄様は帰らぬ人となり、お父様も大きな怪我を負いました。一命はとりとめたものの、自力での歩行が難しく、今はほとんど寝たきりの状態です」
皇女様が悲しそうに目を伏せる。今から十年前だから、彼女は幼い頃に兄を失い、自由に動くことが難しい父親の姿しか知らないのだろう。それがどれだけ辛いことなのか、僕には想像がつかない。
「しかし魔王を討伐した後、魔王の息子を名乗る魔族が新たな王となったのです。そのときはまだお父様が目覚めておらず、騎士団も疲弊していたので攻め込まれていたら民にも死傷者が出る戦いになっていたことでしょう」
新しい魔王を討伐するために勇者召喚? いや、この話は十年も前だ。今喚んでも意味がない。
「けれど、新しい魔王は侵略より籠城を選びました」
「籠城?」
「はい。強固な結界を張り、上級魔族と共に魔王城に閉じ籠もったのです。大陸各地に散らばっていた魔族や魔物も魔王城の周囲に集めて、敵方の縄張りに入らない限り魔物に襲われることはほとんどなくなりました」
好戦的でない魔王のおかげで平和が保たれているようだ。いや、帝国が攻め込まなければ魔族達も平和だったかもしれない。この世界について知れば知るほど帝国に従って戦う気が失せてくる。それでも僕を喚んだ理由がわからないので皇女様の解説に耳を傾けた。
「魔王軍は偵察のために鳥に似た魔物や鼠のように小さな魔物を送り込むことはありますが、戦闘能力が低く使役しているのも魔物より少し知性があるだけの下級魔族でした。攻め込もうにも結界を破る手段が見つからず、十年の時が流れました」
膠着状態のまま歳月が流れて、話が現代へと近づいていく。和平交渉をしたら受け入れられそうだと思うのは浅はかだろうか。
「これ以上戦いを長引かせれば民の負担が大きくなります。しかし、今後の憂いを絶つには魔族を一掃しなければなりません。お父様が動けない今、騎士団を率いることができるのは二番目のお兄様とわたくしだけです」
えーと、皇帝は寝たきりで第一皇子は死去、第二皇子と目の前にいる皇女様が次代の皇帝候補ということだろうか。
「お姉様は十七で嫁入りしました。わたくしももう十六です。両親が結婚相手を決めたらそれに従わなければなりません。お兄様の仇を討つには今しかないのです。ですから文献を読み漁り、勇者召喚という手段に至りました」
ついに僕が喚ばれた理由が明らかになりそうだ。何故皇女様が嫁入りを嫌がって仇討ちの道を選んだのか理解できなかったけど。
「歴代の勇者様は人並み外れた能力で災厄を退けたと聞きます。結界を破壊、あるいは貫通する攻撃ができる勇者様が召喚されれば、魔族を根絶やしにできるに違いありません。ですから、貴方様を召喚したのです」
結界を無視する攻撃か。僕には無理だ。望み通りの勇者じゃなくて申し訳なく思うのと同時に、そんな力を与えられなくて安堵した。一つの種族を滅ぼすなんて極端な発想だと思う。
「しかし、勇者様は戦い方を知らず、結界を突破する能力も持っていませんでした」
「はい、勇者失格です」
皇女様が望む力を持っていないのだから、さっさと追い出せばいい。ここで話している間にも魔物が集まってきているはずだ。でも、放り出されたら魔物に食い殺されるのか。それは嫌だな。
皇女様は「勇者失格などとんでもない」と首を横に振った。
「勇者様がいらっしゃれば、北部から出てこなくなった魔物も出てきます。先程の襲撃には下級魔族も交ざっていたので、魔族にも一定の効果があるのでしょう。魔王城に立て籠もっている者共も誘き寄せることができるかもしれません」
「はい?」
「勇者様は十年に及んだ籠城戦を終わらせることのできる可能性を秘めていらっしゃるのです。護衛は騎士団にお任せください。わたくし達が魔物を一掃しますから、勇者様は前線にいてくだるだけで構いません」
「そんな……」
僕は魔物を釣る餌として扱われるのだろうか。護ってくれるのはありがたいけど、できれば前線には行きたくない。
「勇者様、この国を永劫に平和にするための戦いです。力を貸していただけませんか?」
「魔族を根絶やしにしなくてもいいかと……」
「では、勇者様には護衛をつけず、人気のないところで立っていてください。魔物に襲われたら助けに参りますから」
「襲われる前に助けてください、お願いします」
「でしたら、騎士団と共に行動した方が安全かと」
「ぐっ……」
異世界に来て早々に死ぬなんて嫌だ。生き残るためには、皇女様に従うしかないのだろうか。
「我が帝国軍を信じてくださいませ。勇者様には傷一つつけさせませんから」
「……わかりました、魔王討伐に協力します」
誰か、僕を助けてくれ。
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