第3話 無自覚な世界平和

 6歳になった。最近は世界旅行を夢見るアリスの為に世界中を瞬間移動している。


 そして、現在は霧深い闇夜のロンドンの裏路地で、ヤンキーをお仕置き中だ。裏路地に連れ込んで壁にめ込んでいる。


「ガキ!!俺を現代の切り裂きジャックと知って、こんな事をしてんのか?」

「切り裂きジャック?……だだのヤンキーでしょう?というか、アリスがフィッシュ&チップスを食べているのを邪魔するのが悪いと思うけど?」


 俺は、かごを片手に持ちながら、フィッシュ&チップスを食べるアリスを見つめてそう告げた。


「ん〜……ボチボチかしら?」


 どうやらイギリス料理はお口に合わなかったみたいだ。アリスはここ数年、世界中の美味しい物を食べている為、舌がえている。


「なんだと?!お前……ぶっ殺す!『切裂悪人ジャック・ザ・リッパー』」


 何とかジャックが突然居なくなった。


「ん?あれ……おさえていた術式から抜け出された?……いったいどこに?」


 辺りを見渡す。


 剃刀かみそりに身を包んだジャックが両頬をモゴモゴさせて無防備なアリスに攻撃をしようとしていた。


「オラアァ!!人質にしてやるぜ。可愛い嬢ちゃん!『インテスティン』」

「ん〜?……『聖盾ファランクス』」


 グシャっと何かに押し潰された様な嫌な音が、ジャックの身体から鳴り響く。


「がはぁ?!……なんで俺の右腕が粉々に砕けてやがる?」

「絶対防御を抜けられなかったからだよ。何とかジャック。場所を変えよう。そのグロい傷をアリスに見せたくない。『神威』」

「はぁ? お前……何で俺の間合いに……」


 『神威』は"無限"術式の技の1つ。空間と空間の間との虚構を作り、未知みちなる道を通って瞬間移動を可能にする技。


 ロンドン時計塔の鐘が鳴り響く。この世界のEU地域は、強力な異能者の集団によって街は荒廃していたとテレビのニュースでやっていた。

 

「ロンドン時計塔……イギリス人の真なる象徴しょうちょうは立派に守っていたのは、賞賛しかでないな」

「ここは? トラファルガー広場?!何で一瞬で移動してんだ?」

「『無限』の術式を知らないのか?勉強不足だな。『切裂』の術式使い。『虚来』」

「は?お前なんでさっきと雰囲気が違……があぁぁ?!もう片方の腕があぁ?!」


 『虚来』の"負の力"でねじ曲げられるジャックが悲鳴を上げる。俺の大切な人に手を出したのだ。当然のむくいだ。


「良い術式も使い手しだいだ。知識を取得し、鍛練を積んで、実戦を行う。そうして人の資質は、強固に仕上がっていく。俺の『無限』も最初は苦労したものさ」

「はぁ……はぁ……てめえ。誰だ? さっきのガキじゃねえだろう?」

「どの世界でも人は仮面ペルソナを持っている。あらゆる変化の仮面をな。そろそろ太平洋に放流してやろう。『神威・疾』」

「なんだ。そのデタラメ過ぎる力は……お前等なんかに関わらなければ良かったぜ……」


 ジャックがイラついた顔で俺の目の前から消えた。『切裂』の術式は回収し、俺がコレクションとして持っておこう。


「アリス。放流し終わったから、日本に帰ろう……何を食べてるの?」

「(モチャモチャ)……ジンジャーブレッドよ」

「本当にアリスは食べるの好きだね。お金は?」

「何とかジャックから貰ったわ」

「……アリスは本当に食べるのが好きだね。そのうちお相撲さんになるよ」

「ならないわよ。(モキュモキュ)」

「帰ろう。『神威』」


 こうして俺達は大量のお菓子をお土産に、日本へと帰還した。

 

〖………ザッ………ザッ………ロンドンの……脅威……異能者ジャック・ザ・リッパーの魔力反応が消失。至急、地上へと調査隊を派遣せよ………"放浪者"様のお力により……イギリス……いや、EU圏の異能者及び怪異の脅威は……壊滅……した〗



◇◇◇


 ロンドン旅行から数日、今日は、数年振りに香取神宮に来ている


 なんでもアリスと妹の夢乃の七五三らしい。女の子は、7歳の時に"帯解きの儀"というものを行うとか。ちなみに男の子の場合は5歳の時しか七五三の行事は行わないんだとか。


「可愛いわ〜!夢乃ちゃん!アリスちゃん!」

「俺に娘達もこんなに立派に育ってくれて……良かった。なぁ、日本の治安が良くなって」


 娘達の着物姿に大喜びする母と父。


「私は本当の娘では無いわ。喜一パパ」

「アリスお姉ちゃん。そんな寂しい事を言ったら、メッなの!」

「ご、ごめんなさい。夢乃、気をつけるわ」


 そんな俺は、アリスと夢乃がじゃれ合っているのを少し離れた場所で見守っていた。


「……生前と変わらない日本行事か、変わっていたのは異常な程の世界の衰退と治安の悪さ。それも近年の異能者狩りと怪異退治で改善され、世界はより良い方向へと向かいつつあるか」


 香取神宮も、数年前よりも活気に満ちている。桜が年中咲き誇り、観光客が毎日やって来るようになった。


「今年から俺も小学生か。だが、前世の記憶を持つ身には、どうにも実感が湧かないな……月日が過ぎるのは早いものだな。おばちゃん。わらび餅お代わり〜!」

「はいよ!いつもありがとうね。天龍てんりゅう家の坊っちゃん」


 俺は大好物のわらび餅を食べながら、アリス達の七五三が終わるのを待った。そして、暇潰しにテレビを眺める。


〖今、世界中から犯罪を行う異能者や、危険な怪異が減りつつあります。これも"放浪者"様のお陰です〗

〖アメリカ、ロシア、EU圏の地下シェルターに避難していた方々も続々と地上に戻り各国が復興を……〗

〖世界経済の建て直しも急務ですが。異能者や怪異に対抗する為の"魔術師育成機関"の創立が急務。日本政府は各国と共に優秀な若き人材を東京の魔術学校に集めて……〗



「……魔術学校?俺とアリスが入学する学校じゃないか。(モグモグ)」




 


 

 


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転生前に魔術を極めた魔術師、『無限』なる最強の魔術を手に入れたので、2度目の人生は静かに暮らしたい 冰藍雷夏(ヒョウアイライカ) @rairaidengei

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