男の人
白川津 中々
◾️
男の人が苦手だ。
明確な理由はとくにない。生理的にというか、私という人間の根本にある部分が、男性に対して拒絶を示すのである。なにか、男特有の「らしさ」が、排水溝を通って鼻をかすめる臭いのようで、彼らの価値観や仕草が明確に受け付けられないのだ。
しかし、そんな私にも奇跡的に、気になる人ができた。
「
「あ、はい……」
「……なにか?」
「いえ、いってらっしゃい……」
「はい」
添付データと一緒表示される
「45で契約社員とか恥ずかしくないのかな」
男の人はみんなこぞってそんな陰口を叩く。どうしてそんなに優位に立ちたいのか私には分からない。威張れるような成果を出しているわけでもないのに。
私は、そんな風に他者と比較して勝った負けたと騒ぐような人より、日陰でひっそり生きている人間の方が好ましく感じる。この偏愛は間内さんに対するもので、間内さんに好意を向けているという意味でもある。しかし、間内さんに女として見られる場面を想像すると、途端に……
「……嫌な気分」
胸の中に蜘蛛の巣ができたみたいに不快で、堪らず外に出た。暖房で熱った体が風にさらされて緊張感がほぐれる。昼食にしよう。そんな風に歩いていると、歩いている間内さんを見つけた。
「間内さん!」
思わず声をかけてしまった。
「あ、どうも」
遠慮がちに会釈をする間内さんにときめく。やっぱり彼は違う。そうだ。食事がまだったら誘ってみよう。もっと話をしたい。もっと知りたい。そんな風に思った。けれど。
「……」
雑に捲られたワイシャツに、シルバーの時計。露わとなった腕そのものが間内さんの男性の肉感を表していて、私は一瞬たじろいでしまった。
「……なにか?」
「あ、いえ。休憩中失礼いたしました。それでは」
私は足早に、彼と距離をとりたくてその場を離れた。
嫌な汗が背中を伝う。どうして、なんで腕まくりなんてしているんだろう。そんな勝手な考えが頭をグルグルと巡り、涙さえ出てきてしまう。間内さんは悪くないのに、私の都合なのに、彼を軽蔑して傷ついてしまっている自分が嫌になる。
「嫌だな。嫌だ、嫌だ」
随分歩いて、呼吸が乱れているのに気づき足を止める。風が汗に当たり、心臓が鼓動して肺が伸縮している。
「気持ち悪いな」
気持ち悪い。何に対して。
そんな自問自答が頭に響く。
食欲はもうなくなっていて、私はもう、そこで立っている事しかできなかった。
男の人 白川津 中々 @taka1212384
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