第3話
目を覚ますと、ラザールはこの世界で生きていくための服を俺にくれた。“勇者”と言ってもゲームのような勇者の服ではなく、どちらかと言えば王子のような服を支給された。色は白と青。これは汚れが目立つぞ……。
「お仲間は揃えられたらよかったのですが……まずは、私とあなた様の二人のみからスタートになります。これからよろしくお願いします」
「あ、ラザール、さん? ……は、ついてきてくれるんだ」
「ラザール、で良いですよ」
「そ、そう? じゃあ、ラザール。よろしく。俺は叶人。叶人でいいよ」
「カナト様、ですね」
「叶人でいいのに……」
「とんでもございません」
ラザールは頑なに俺を呼び捨てにしなかった。それに少し寂しさを感じながらも、俺は、前を向く。そうして、ラザールに連れられ、国王に会いに行くことになった。まずは挨拶だ。
***
予想はしていたが、王室というのは広くかつ豪華なもので。俺たちは、金色の大きな王座に座る国王の前の、どこまでも続きそうなレッドカーペットに跪き、開戦を宣言した。すると、
「そうか。其方が勇者か。話は全て、ラザールから聞いている。善きに計らえ。死ぬなよ」
国王は難しい顔をしてそう言った。……善きに計らえって、確か「好きにしろ」ってことじゃなかった? もしかして、あまり望まれているわけじゃない? ……そう思えば、
「何ですか、その言い草は! 死なないために協力してくださいと言っているのです! それなのに、いつもあなたは他人行儀で……!!」
ラザールは声を上げて国王に叫ぶ。こんなことを言っていいものなのか。最悪首が飛ぶのではないか。そう思って俺がヒヤヒヤしていると、
「もういいです、この薄情者!!」
ラザールは最後にそう言い残し、俺の手を引きながら王室を出た。
廊下を駆け抜けると、ラザールは息を切らしながら足を止める。俺は昔の自分にラザールを重ねると、優しくその背を摩って「大丈夫か」と聞いた。
「すみません……、実は、私も身体が強くないもので……」
……わかる。走るとすぐに息が上がって、呼吸ができなくなるんだ。だから、一緒にいる人に申し訳ない気持ちになる。俺も経験した。
「本当は、戦いにカナト様を巻き込むべきではありませんでした。しかし、……何せ、こんな身体ですから、満足に戦えず。……私の身勝手な復讐のために、カナト様を巻き込むことになりました。……どうか、恨んでください」
肩を大きく上下させながら言う空の目には、涙が浮かんでいて。
「恨まないよ。……ラザールの気持ちは、痛いほどわかるから」
俺はその頭をわしゃわしゃと撫でながら、彼を抱きしめた。すると、少しは安心してくれたのだろうか、ゆっくりと息が整っていく。
「……すみません。お見苦しいところをお見せしました」
ラザールは顔を上げると、微笑みを浮かべた。その微笑みが、あまりにも眩しくて……
「そ、そう言えば! ……復讐って、誰に何をされたのか聞いてもいい?」
誤魔化すようにして言えば、ラザールは
「え、あ、あぁ……。実は、お母様を、魔族に殺されてしまいまして。お父様はお仕事がありますから、復讐は果たせないでしょうし……。そうなると、私がやるしかなくて……」
なんてことを、恥ずかしそうに話してくれた。
「そっか……。大変だったんだな」
「……いえ、とんでもございません」
ふと、雄大のことを思い出し、頭を悩ませる。このままだと、ゆくゆくは、雄大と戦うことになるんだ。魔族と敵対すると言うことは、彼の友人と敵対することでもある。そんな友人を傷つけられた雄大は、何を思うだろう。きっと、優しい奴だから、友人のために怒るだろうな。
「……私、とりあえずお父様に謝ってきます」
「おうおう、そうし……、ん? お父様に?」
「はい」
「……ま、まさか、お前のお父様って」
「? 先程会いましたよね?」
「こ、こここ、国王様ーっ!!?!?」
この男、しれっと言っているが聞いていない。とんでもない話をしてきた。しかしなるほど、どうりであの時首が飛ばなかったわけだ。普通なら国王に暴言を吐いたらその時点で首が飛ぶだろうが……親子ならそうはならないだろう。それに、服が王子っぽいのも彼のチョイスなら納得がいく。彼が思う、一番良い服が王子の服だったのだろう。それから顔がいいというのも王子と聞けば納得だ。
「言っていませんでしたっけ?」
「言ってねぇよ!!」
「必要のない情報かと思いまして……」
「いや、重要な情報だよ!?」
王子にタメ口だったけど良いのだろうか……。だが、今更だ。ラザールが気にしていないようだったから良いのだろう……たぶん……。
こうして、ちょっと抜けた賢者兼王子様と、異世界初心者の勇者(仮)の俺は、共に魔王を倒すための旅を始めるのだった。
……ちなみに、きちんとラザールは、国王の父に謝罪して仲直りを果たした。国王からは、金銭面の援助をしてもらえるらしい。めでたしめでたし。(※これから始まります)
勇者として召喚された俺だけど、三年前から行方不明だった親友が魔王になっていたから和解の道を選ぼうと思うんだ。 葉月 陸公 @hazuki_riku
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