第2話
「いきなり異世界へ飛ばされたのです。お疲れでしょう。まずは、ごゆっくり、おやすみください」
ラザールに言われて、用意された寝室でベッドに体を預ける。家や病院のベッドよりふかふかで、眠前の薬はもういらないらしい。……俺はできすぎている話に思考をぐるぐると回すと、後が怖くなりぎゅっと目を瞑り、もういっそ、眠りについてしまおうとした。が、しかし、
__コンコンコン
窓を叩く音が聞こえて、カーテンを開ける。月明かりと共に入ってきたのは……
「……久しぶりだな、叶人」
「え……、まさか、雄大?」
三年前に姿を消したはずの親友・雄大だった。
「お前、なんでこんなところに……?!」
「しっ。静かに。本当は、立場的に俺とお前はあまり一緒にいない方が良いんだ」
「ど、どういうこと……?」
「お前が新たな勇者で、俺が今の魔王だ」
「はぁっ!?」
「静かに!」
雄大のことも信じられないというのに、彼の口から飛び出した真実……雄大が“魔王”だということにも驚き、思わず声が漏れる。俺は、未だ困惑しているというのに、雄大は、流石というべきか、冷静に俺を鎮めていた。
「お、俺……、お前と戦うなんて嫌だよ……」
「……俺もだ。だが、お前が人間の味方をするというのなら、戦うしかない」
「どうして……!!」
「……俺は、あまりにも多くの魔族に愛されてしまった。魔族を裏切ることはできない。俺は魔族と共に生きたい」
そう言う彼の表情は、覚悟が決まっていて……俺は、その言葉を聞くと、何も言えなかった。反論したい気持ちばかりが喉に詰まっていた。そして、
「最後に、お前と二人で話をしたかったんだ。よかった、間に合って」
なんて言って、彼は柔らかく笑うものだから。その反論したい気持ちすら、消されてしまう。
「また会える時を楽しみにしているよ。例え、それが殺し合う日になったとしても」
雄大は言いたいことを言い終えたのか、窓枠に手をかけ、腰をかけ、俺の方を見て微笑む。
「じゃあな、叶人。元気でやってくれ。俺以外には殺されるなよ?」
月明かりに照らされて、風に溶けていく雄大は確かに“魔王”らしく、カッコよくて。俺は咄嗟に窓枠に手をかけたが、彼は闇の中に消えて、見えなくなってしまっていた。
「……お前は、どうしていつも俺を置いていくんだ」
小さく呟かれた言葉は、誰にも知られず、夜の中に吸い込まれていく。……俺は小さくため息をつくと、再びベッドの上に体を預け、つぅっと涙を流しながら、眠りにつくのを待った。
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