第1話 5人だけの特別クラス

 「──え、ええと……は、初めましてっ! このクラスのたた、担任を務めます、しゃく……! 佐久間さくま碧人あおとです! よよよよろしくお願いします!」

 「よろしくお願いしまーす碧人せんせー!!」


 元気に挨拶を返してくれた男の子の優しさが寧ろ俺の心にトドメを刺した。

 こんな緊張しまくりどもりまくりの俺なんて普段の俺じゃない。

 けれどこれは仕方ないことだ。そう心で自分を慰める。

 だって、誰しもこうなるに決まっているはずだから。

 ──世界を滅ぼす力を持った子どもの前なんて、恐怖するに決まっている。


 ◇


 昔、とてもお世話になった学校の先生がいた。

 あの人の様になりたくて、俺も教師を目指して高校、大学を卒業した。

 晴れて俺も教師の一員になれたはいいが、配属された高校──つまり俺が今居る学校ではとんでもない生徒を抱え込んでいた。

 『終焉の御子』そう呼ばれる世界を滅ぼす力を持った4人の子どもたちだ。

 日本政府は彼らを懐柔し、世界を滅ぼすのを止める用に説得しようとしているらしいのだが、一般人からしてみれば彼らは世界を滅ぼす厄災だ。子どもの姿をしているものの終わりの象徴として君臨している恐怖の対象なのだ。

 そんなものに関わりたいなんて微塵も思わない。


 しかし……今の俺は世界を滅ぼす子どもたちの担任教師となっている。泣きたい。帰りたい。


 俺がこの4人の担任教師となった理由は、単純に誰もやりたがらなかったから。

 4人は他の生徒への影響や安全を考えて彼ら専用の特別校舎をわざわざ作り、そこで授業を行っている。

 授業もそれぞれの担当教科の先生が教えているが、担任教師は長時間1番近くで彼らと過ごすことになる為に誰もやりたがらないのだ。


 そして、俺は誰かに担任を押し付け合う空気を嫌って思わず俺が担任になると言ってしまった……。

 今はあの言葉を猛烈に後悔してしまっているし、緊張と恐怖でまともに喋れなさそうなのだが、教師とは生徒に寄り添える大人だと俺は思っている。


 いずれは世界を滅ぼす子どもとはいえ、それでも子どもなのだ。彼らを正しく指導することが、俺にできることだと思っている。

 ……まぁ、いざ彼らの前に立てば恐怖しまくりで説得力が無いけど。


 「はいはい先生質問! 質問あんだけど!」

 「あ……うん、何かな十六夜いざよいくん……」


 終焉の御子の姿と名前は全世界に広まっている。当然俺も彼らについてある程度は把握している。

 さっきは元気な挨拶を返し、今は俺に質問をしようとしてる男の子は十六夜あきら。明朗快活という言葉が良く似合う少年だ。


 「碧人先生って彼女とかいる? いないならオレが彼氏に立候補する!」

 「………………」


 質問……はなんというか、漫画とかで若くて顔の良い教師が恋人はいるのか質問される状況と同じだが、後半の言葉が衝撃的すぎた。

 彼氏……? なんで……? 俺のこと女性だと思ってる?

 とりあえず当たり障りのない感じで返答することにした。


 「……えっと、彼女はいません。そして……えー……立候補してくれるのは嬉しいけど……未成年とは付き合えないかな……ハハハ」

 「そ? それは残念だなー。にしても先生オレの苗字知ってんだね、嬉しいな。他の奴も知ってる?」

 「えと……まぁね。調月つかつき桐人きりとくん、鳴宮なるみや紫乃しのさん、夜見よるみけいさん。そして十六夜暁くんの4人が……その……」

 「はーい! いずれ世界を滅ぼす終焉の御子くんちゃんです!」

 「…………」


 口調は元気溌剌で活発な子という印象だが、言葉の内容はマジで笑えない。

 終焉の御子の4人のことはニュースやネットの情報でしか知らなかった。彼らも人として生まれたのは知っているが、人として生まれただけの別生物だと語っていたコメントに今共感してしまった。

 この子たちは俺とは別種の存在なのだと、この短時間で思い知らされた。

 人の形をしているだけで、同じ時間を生きていない存在なのかもしれない。


 「先生オレたちのこと知ってるらしいけど、自己紹介した方がいいよな? じゃオレから始めまーす!」

 「あ、うん、お願いします……」

 「オレは十六夜暁、勉強はあんま分かんねぇけど体動かすのは超好き! 趣味はあちこち旅行することで、最近やった『終活』は外国が撃ってきたミサイルを送り返して製造施設っぽいとこ破壊したことかな!」

 「…………終活?」

 「終焉活動! 略して終活!」

 「…………」


 前半は高校生らしいのに……高校生らしいのに……!

 あと俺の知ってる終活は人生の終盤に向けてさまざまな準備や整理を進めることだ。そんなミサイルだの破壊だの物騒な言葉が出るものじゃない。

 というか一昨日、日本に迫るミサイルを撃ち返したのって君だったのか……。


 「次は誰行く? ここは五十音順? だとしたら次は桐人だな」

 「……俺かよ」


 十六夜の言葉に気だるげに応えた男の子──調月は一つため息を溢し、顔を俺に向けた。


 「調月桐人、外国から来たらしい暗殺者を返り討ちにした。……まぁ、よろしく」

 「いい終活だよな! ちなみに桐人が殺した暗殺者は依頼した外国に送り返したみたいだぜ。クールだな!」

 「…………」


 名前は自己紹介だし別にいいんだけど、なんで趣味とか好きなことは言わずに終活だけ言うんだよ。別に俺に対して言うことじゃないだろ? あれか? 俺を脅しているのか? お前もこうなりたくないなら気を付けろって? だとしたら怖すぎだろ。

 それから十六夜の補足話も怖さが増す余計な言葉だ、全然クールじゃない。

 ……声に出してツッコミたいけど、実際に口にするのには物凄い勇気がいるので内心で思うだけにする。


 「次は紫乃だな」

 「そう……」


 十六夜に指名された眼鏡を掛けた女子──鳴宮は淡々と自己紹介をする。

 

 「……私は鳴宮紫乃、4人の中では1番勉強ができる方だと思います。最近は特に力を使った覚えはありません。よろしくお願いします」

 「確かに紫乃は一ヶ月ぐらい力使ってないみたいだよな。最後に力を使った時は確か……どこだったか忘れたけど外国の山を3つくらい更地にしたんだっけ?」

 「確かに最後は山3つを消したと記憶しているわ。まぁあの国は世界が団結して私達を殺すべきだとかなんとか主張してたから、ちょっと派手に暴れただけよ」

 「…………」


 一ヶ月前に山を3つ更地にしたって……1つはその国の世界遺産だった場所じゃん。

 人が亡くなったとかはニュースになって無かったはずだけど、やってることは男子2人と全く変わんないんだよな……。

 

 「最後、恵だな」

 「あ……夜見恵、です。えっと……よろしくお願いします、佐久間先生……」


 最後の夜見は恐る恐るといった感じで自己紹介をした。


 「恵はあんま終活はしてねーな。せいぜい襲ってきた奴を返り討ちにしたぐらいか? まぁこれで4人共自己紹介は終わったな!」

 「そうだね……皆、改めてよろしく……」


 俺は4人の顔をそれぞれ一瞥する。

 ムードメーカーの十六夜暁。

 物静かでクールな調月桐人。

 真面目でさっぱりしている鳴宮紫乃。

 消極的な印象の夜見恵。

 短時間の関わりだけで情報はまだ全然足りてないけれど、今のところ4人の性格はこんなものだろうか。


 これから俺は、この世界を滅ぼす4人の子どもの担任教師となる。正直教師を辞めたいくらい後悔しているが……なんというか、意外となんとかなりそうだなと思っている自分がいた。


 自分でもそう思うことに驚いているが、物騒な発言を一端無視して彼らの言葉を聞けば、十六夜は俺に好意的な感じだし、調月も鳴宮も夜見も最低限は俺と関わろうとしている印象を受けた。

 世界を滅ぼそうとしている割には、人間が嫌いな訳ではないのだろうか?


 ──いや、違う。

 嫌う、という感情そのものを最初から持っていないだけかもしれない。


 これからどうな学校生活を送ることになるのか、俺には全く想像ができない。

 ……せめて、彼らが少しでも楽しいと思えるように、俺は俺を救ってくれた先生に誓って頑張っていきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月3日 21:00

終焉の子どもたち ガライツキヤ @garaitsukiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ