第11話「寂しくなると死んじゃう」
「このうさ耳は、飾りじゃないんだぜ?」
「せめて、すね毛を剃ったらどうでござろう。ラビロップ殿……」
体臭のキツイおじさんが、ステージの中央で網タイツと格闘している。筋骨隆々だ。今回は、下着を穿いていることに安堵する。
「ガハハハッ! 先輩も酷なことを申される。ルミナ様のバニーガール姿を拝みたくないと?」
「何でござろうな。普通に渡せないのか? 不敬でござるよ」
「らしくない! 怖気づかれたとは」
ダンスホールの煌びやかな照明が眼に痛すぎる。特等席を僭称するパイプ椅子は余りにもガタガタで、最近痛めた腰にかなり効いた。私はなんでこんな奴を見守っているのだろう。
「だって、寂しくなると死んじゃうんだもん!」
「心を覗くとは、不埒な奴よ。ええい、近い! ボディースーツに、取り掛からぬか」
余程の剛毛と見える。すね毛は諦めたらしい。視線をやれば、そこかしこに刃の欠けた髭剃りが散らばっている。私は、さめざめと泣いた。
目と鼻の先で屈伸するラビロップ。舞台の上で、赤い衣装に悪戦苦闘する様は、何の罰ゲームなのだろう。
視線を落とし、羊を数えることを決めた瞬間のことである。
ふと疑問に思ったのだ。なぜ、ラビロップは人間そのままなのかという事に。
見上げれば、頭上に一対の紙切れが舞っていた。それは、ラビロップのカチューシャに張り付けられていた『うさ耳』だった。
ねっとりとした視線を感じる。燃えるような紅い瞳のラビロップだった。あっという間に距離をつめた彼は、私の肩を掴んで離さない。
「見たな? 先輩? 知られたからには、ただでは済まないぜ?」
注射器のような物が、視界を掠めた気がした。喋ることができない。彼は、背中を向けて絶叫する。
「
眩い閃光が、私達を包んだかと思えば、建物は跡形もない。周囲を見渡せば、辺りは一面の銀世界だった。可愛らしい兎が一匹ぴょんぴょん飛んでいる。
「大成功だね? ラビ君が成長したよ」
眼前には、愛しい人が微笑んでいた。紅いお下げを、生き物のように揺らし、小動物を抱きかかえる。
大威張りで、彼女の胸元に潜り込む兎に、釈然としない物を感じた刹那の事だ。
兎の背中に、チャックのような物を視認し、私は身がすくんだ。
「大丈夫! 君たちは、こうして成長するんだから! でも、言いふらしちゃだめだよ?」
ルミナ様が、人差し指をそっと自分の唇に当てる。その背後では、どこまでも続く銀世界が、彼女の紅いお下げをより一層鮮やかに際立たせていた。
背中をさする。
小さな金属を、この手に感じた時、絶望に身を震わせることしか出来なかった。
ルミナ様の魔力、召喚獣共により浪費中 しゃぼの @shabono
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