第6話「宇宙の神秘、いつかの風景」

「先に行け、後から必ず追い付く!」


「お主を見殺しには出来ぬ!」


瑠璃色の金箪笥に蛇が巻き付いている。鋭い眼光が横取りを許さない。崩れゆく我らが聖女の部屋で押し問答が繰り返されていた。それは特定のご婦人方が好みそうな、ある種の茶番だった。


「ナーガトスク殿、よく考えよ。己が命と引き換えになる物など、滅多にはござらんよ?」


「今がその機会なのだよ、ゼファー君! この中にはね、宇宙の神秘が秘匿されている!」


「神秘? 貴殿が何を申して居るか、分かりかねる!」


「白々しい。ルミナ様の下着だよ。私の方が早かったのだ!」


色欲に狂った神獣は毒蛇の眼をしていた。理性を完全に失っている。愛刀を正眼に構え、私は咆哮した。大理石の床に、亀裂が走っていく。


「執念の付きまとい痛み入る。だが拙者が先だ、下郎!」


「元人間の青二才が……。口を慎みたまえ!」


閃光の如き抜刀は、宙で火花を散らし、鋭い咬撃で受け止められた。愛刀が咬合されて、全く抜けない。刹那、私は逆手で鞘を蛇の頭に打ち据えた。彼は地面にのたうち回る。


「げほ! よくもやってくれたな~……」


「いざ、この世の真理を手にせん!」


両腕で素早く重厚な箪笥を引いた。幸福に胸を高鳴らせながら、開けた花園にあったのは、紙切れ一枚だった。


「『犯人はお前だ!』……? これは、一体?」


その瞬間の事である。左脚のアキレス腱に鋭い痛みが走ったかと思えば、全身が灼けるような熱に包まれたのだ。意識が朦朧とする。視界の端に、聖女ルミナ様の微笑とため息が映った。


「やっぱり彼だったんだね、ナーガ君……」


「気を確かにお持ちください。聖女様、ゼファーも魔が差してしまったのでしょう」


銀白の月に照らされた聖女様は、呆れた顔さえお美しい。だが薄れゆく意識の中で思ったのだ。私を炙り出すために、城一つ解体しなくてもいいだろうと。


『この世界が、間違っているんだ!』


深淵に呑み込まれる瞬間、私の胸に去来したのは、どこぞの丘で天に吠えた遠い日の夕闇だった。

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