第5話「白虎一敗、月に吠える」
「俺は神だ! 金を寄越せ!」
「トイチで良いなら、貸さんこともないが……」
眼前の虎、神獣ビャッコはまた賭けに負けたのである。酒を徳利になみなみと注いで、出来上がっているではないか。月下、竹林の囲む小高い丘で、我らは酒宴に興じていた。
「ビャッコ殿、正直に申せ。お主、勝った事はあるのか?」
「ない! だがな、次は絶対勝てると、俺の直感が告げるのよ」
時間が凍る。呆れてモノが言えない。初めて会った時、屏風から開放したことを後悔した。
「そもそも何故、初めから負けが決まっている戦いに挑むのだ?」
「酷い言われようだな! だが、傾向と対策は必要だ」
銀色の盃を両手で一気に飲み干すと、私を見据えて彼は言った。
「ルミナ様に首を撫でられると、どうしても猫なで声になる。記憶が、そこから曖昧でな……」
「な・ん・だ・と」
「何をされたのかは明白なんだが、どうして負けたのかは分からねぇんだ」
不吉な風が吹いた。編み笠の紐が解けて宙を舞う。私の息遣いは酷く荒い。
「お主! ルミナ様の『特別』ではないか、今月の! 拙者、まだ選ばれたことないのに!!」
「??」
「ええい、そこに直れ! 成敗してくれるわ!」
居合の構えを取る。敵は、あの竜王神と双璧をなす神獣。斬撃を躱されれば間違いなく死ぬ。
「いいだろう、良く分らぬが。初めて相対した時のように。いざ尋常に……」
鞘走った刀が、極大の竜巻を放ち白虎を捉える。風の流砂に吸い込まれた彼は、グルグルと回転してペースト状になった。
「ルミナ様のお供でな? 魔法の真似事を覚えたのだ!」
バターのような彼を、インクジェットにして即席の紙幣に閉じ込める。物凄く獣臭い。ゴワゴワとして、とても使い物になりそうにない。
「お前の方が特別だろーが!! ここから出せ!!」
黙殺した。お札の肖像は相変わらずの虎顔で、首元の鈴から程よい音色が聞こえる。私は、その場で倒れ込み、夜空の月をぼうっと眺めるのであった。
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