第4話「地下水脈の密議」

「ルミナ様がさばを読んでいるって、ホントなの!?」


「ガルム殿、静かになされ。聞かれたらどうする……」


地下水脈が走る大空洞の暗がりで、柴犬と密議していた。魔力は完全に遮断され、しなびた蝋燭の灯りだけが、かろうじて視界を照らしている。


「間違いない。一週間前、お供した折のことだ。酒場で、飲んだくれているのを見てしまったのだ」


「ソ、ソフトドリンクだよ〜。ゼファー、馬面うまづら全開で悪い冗談を……」


神獣の視線は宙をさまよい、焦点が合っていない。滴る水滴の音だけが、洞窟の奥へと虚しく響き渡る。


「ガルム殿、現実を見よ。ルミナ様は、まことに童顔であらせられるが……お主の好きな学童ではござらん」


ビクつく豆柴。艶やかな毛並みは見る影もなくボサボサで、ここ数日の心労がありありと見て取れた。わなわなと震え、今にも泣き出しそうである。


「ゼファー!  君は、合法であれば二十代で納得できるの!?  認めない! 女はね……」


「ガルム殿、それ以上は言わせぬよ?」


ガルムの背後にスカルドラゴンの骨を投げると、彼は喜々として拾いに行った。流石は神獣、その嗅覚は伊達ではない。あっという間に戻ってくる。


「はぁ、はぁ、僕を犬だと思って!  そういう君はどうなんだい?」


「拙者は、すべての人間の女性を愛しておる。その中でも、若い子が好きなだけだ」


「その年齢の下限を教えてくれない?」


ガルムが挑戦的な眼差しを向けてくる。こんな時ばかりは、神獣らしい顔つきだ。いつもの小物臭は、いったいどこへ行ったのだろう。


「法律だ、法律がすべてを決めるのだ、ガルム殿。誰もが、少女を守る殺し屋にはなれぬ」


「二十だなんて、年寄りじゃないか!  あんまりだよ!」


ベビーフェイスに浮かぶ狂った純情。その怒気は確かに滲んでいた。下から吹き上げる風が、灯りを吹き消す。


「バラそうよ、あの女の年をさ。同志は多いほうがいい」


刹那、私の背中に戦慄が走った。目をカッと見開き、駄犬の肩を両手で掴む。


「正気か?  お前は?  女性の年齢はこの世界で最大の秘密なのだ!  学童の守護者よ!」


「うん、でも十は過ぎてるよね。ダブルスコアって……」


子犬は震えながら、自身の性癖を吐露する。


すると、頭上で甲高い声が響き渡った。


『二人とも〜、最初から丸聞こえだよ〜?  お酒はちょっと勧められただけ。あっはっはっは。じゃあ、ちょっと覚悟してもらおうか?』


突如として大空洞に光が灯る。巨大な岩が、轟音とともに転がりはじめたではないか。


一目散に逃げ出す私とガルム。しかし、岩はあっという間に目と鼻の先まで迫ってくる。堪らず地下水脈へ飛び込んだ。


だが、どうしたことか。水は瞬く間に干上がっていく。ぞわりと背中が剥がれるような悪寒。


そして、それは戻ってきた。聖女様の怒りは、しばらく収まりそうにない――。

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