第3話「白銀のまなざし、金のたわごと」
「貴方が落としたのは、金のルミナ様? それとも――」
「両方、頂けぬか、ファルクレア殿」
天空の泉で即答すれば、かの白馬は憮然とした表情を浮かべている。おかしい。決まりきった答えではないか。不気味な沈黙が辺りを支配した。ブナの森を、カラスたちが縫うように飛び去っていく。
「強欲ね。何も落としていないのに」
「失うものがないでござろう? 言ってみるものよ」
神獣は、よほど可笑しかったと見える。腹を抱えて笑っていた。
「冗談は、顔だけにしてほしいわ、ゼファー。貴方、結構本気だったじゃない」
「いつも本気でござるよ。ルミナ様のことなら、なおのこと」
作務衣を脱ぎ、上半身に筋肉を浮かび上がらせると、腹筋はものの見事に六個に割れていた。
「ところでね、私、銀のルミナ様とは、一言も言ってないのよね」
「ならば、プラチナのルミナ様でござるな」
かの馬は、目が点になっている。おかしい。ここは報酬が上がるところだ。だというのに、心なしかフォルクレアの眼に怒りの色が滲んでいた。瞬く間に空を黒い雲が覆い、稲光が頭上を掠めた。
「白銀のフォルクレアだ! おるだろーが! ここにも乙女が!」
「馬でござろう……。圧倒的に、馬でござろう。白銀かもしれんが」
首をすくめる。おどけて、その場から逃げ切ろうとしたが、甘かったのだ。
「そう、だから貴方も馬になればいい。ね? 素敵でしょう?」
私が刀を抜くより速く、いや、ずっと速かった。正に一瞬のことである。振り向きざまに後ろ脚で、したたかに泉の方へ蹴り飛ばされたのだ。豪快な水しぶきを上げて、私は水底の方へと沈んでいく。
そして、薄れゆく意識の中、とても愛しい人が、ファルクレアに何かを訊ねる声が聞こえた気がしたのだった。
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