テール・エンドのドタバタ神記

阿屈洞摩

<プロローグ>

 (……今度は、どこでしょう?)

 ――気づくとそこは、古い8mmフィルムが再生されたような世界

 (凄い雨です……)

 宙に浮かぶ女性が顔を上げれば、空は鉛色の雲に覆われてる。

 (キャッ!)

 ピカッッ‼と眼前に稲光が走った。

 ギュッと瞑った目を恐る恐る開き、今度は、身体を通過・・する雨粒の打ちつける先を高い視点から見下ろす。

 (い、一体何が起こって⁇)

 ビュオォ~~ッ……と空間の一部が切り取られたように数千もの渦が巻いていた。その中から、キャノン砲やガトリング・ガン、レーザー放射器など、古今東西、大小様々な兵器が顔を出す。

 地上に大きく開いたクレーターの上には、紅葉した迷彩柄の戦闘服を着た男が右手を空に向けている。

 (まさか、あのライオンみたいな男性は……、“ヘッド・エンド”における最高位階、究極界の“アウトロー”⁉)

 女性はこの身の毛のよだつような光景がその恰幅の良い男によってもたらされているのだと確信し、内反響する声を僅かに震わせた。

 それから、数千もの火器が一斉にエネルギーチャージを始め、ギュィィ~~~~ィィインッ……と恐怖の不協和音が轟く。

 「これ、将軍様もガチのやつじゃん⁉ 今すぐ飛ぶべ!」

 緑ベースの一般的な迷彩服を着用した100名ほどの者たちは、額を怪しく光らせ、ガヤガヤと空中へ避難を開始する。

 (彼らは、究極界の部下たち? こ、こちらへ来る)

 敵対勢力が慌ただしく視界を通り過ぎていったところで、女性は再度、者々がまばらになった地上に目を向ける。そこにいたのは、自身と所属を同じくする面々。

 (……あそこで倒れてるのは、つい先日、“テール・エンド”にやってきた“シフテッド”)

 茶色いベレー帽を被ったアートスクール生っぽい女子の腕の中では、艶やかな栗色のロングヘアをした女性が気を失っているのが窺える。少し離れた場所では、白いニット帽を被った外はねボブの小柄な少女とメンズカチューシャをした赤髪の若者が、ずぶ濡れになって地面に伏す。

 (他にも、テール・エンドで見覚えのある顔がありますね……)

 ――アートスクールの女学生に加え、Sっけの強そうなお姉さん、ゴリマッチョなオネェ系の男、インテリ眼鏡をかけた優等生みたいな少年……。

 トンデモな危機が差し迫る中、意識のある者たちは瞳に願いを込めながら、その場に留まり続けている。

 ……そんな彼らの視線の先でありクレーターの中心、そして、すべての銃口が向けられている先には、血に染まったシャツを着た一柱ひとはしらの青年が立っている。

 (……彼からは、何か底知れぬものを感じます)

 ストーン・ペンダントを首から下げた青年の瞳は深い闇に沈み、真っ白な髪が黒煙のように逆立って揺らめいている。

 思わず息を呑み、女性がその姿に見入っていたところ、ライオンのたてがみのような髪型をした男は、が鳴り声を上げて右手を振り下ろす。

 「オープン・ファイヤァァア‼」

 それと同時に、数千もの火器が一斉に火を噴く。

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ‼

 射撃音、砲撃音は空気を大きく振動させ、目を開け続けるのが困難なレベルの眩しい光がその場を支配する。

 ……これから0コンマ0000000数秒のうちに、砲撃の雨霰あめあられが自身に降りかかろうというにも拘わらず、青年は表情一つ変えない。まるでタネの知れた手品を見るように。

 「…………」

 先着した数十本の光線がその頭部を打ち抜こうかという次の瞬間……、


 ムゥゥーーーーーーーーゥゥウンッ‼


 青年を中心に無色透明なオーラが広がり、それは一気に大気圏にまで達する。

 『…………⁉』

 その結果、マゼンタ色した数千もの渦と兵器は一瞬にして消え、無数の砲撃は打ち消され、雨は止み、快晴が広がる。

 『うわぁぁ~~~~っ‼』

 透明に揺らぐオーラの影響か、上空に避難していた者たちは浮力を失い急降下。至る所に水溜まりのできた大地に、次々と不時着した。

 一連の模様を目の当たりにした女性は、何かにピンときて声を大きくする。

 (この力は、まさか⁉)

 とっておきの大技を封じられたライオンヘアの黒肌の男は、ギョロッとした眼球をせわしなく左右に動かす。

 ……その後方では、険悪なムードが部下たちを別つ。

 刺さるような声を背中で受けながら、顔中ピアスだらけな金髪坊主の男は、自らの額からプロジェクターが如くシェルターゲートを投射した。両開きのそれが開くや否や、水面を覆う油膜のような空間の先へ姿を消す。

 他の数名も金髪坊主に倣い、それぞれが額から投射したゲートで逃走を企てようとする。

 ……だが、その動きを察知した青年は、再び、無色透明なオーラを広範囲に広げる。

 「じ、“次元の狭間”を開けない。。」

 ゲートは初めから存在しなかったかのように消滅した。退路を断たれ、戦闘服の者たちの間に焦りの色が広まる。

 青年はフワッと空中に浮き、一度、透明に揺らぐオーラを自身に収束させた。それから、仲間と思われる七名に両掌をかざし、無色透明なオーラで彼らのことを包み込んだのち、深い闇に満ちた瞳をライオンみたいな風貌の男に向ける。

 (次は、何をする気でしょう……)

 女性が固唾を呑んで見守る中、透明なオーラとは完全に別物の純黒のオーラを全身に宿し始める青年。

 (これは、やはり……)

 宙に浮く純黒の球体を見上げたまま、ライオンのような男は悟ったように動かない。

 そしてっ……、


 ヴゥゥーーーーーーーーゥゥウンッ‼


 青年を中心に急膨張した球体は、その場のすべてを呑み込んだ。

 刹那のうちに、目の前が暗黒に包まれると……、

 し~~~~~~ん……

 静寂が訪れ、紫色のロングヘアをした女性がハッと目を覚ます。

 「…………」

 ふんわりとした掛け布団を下ろし、ベッドから身体を起こせば、額から頬を伝った汗が首筋に流れる。

 「ふぅ~~」

 波打つ鼓動が収まらず、女性は一度大きく深呼吸をしてから、枕元で寄り添っていたテディベアを手に取った。

 「大変なものを見てしまいました……」

 そう、膝上のぬいぐるみに語り掛けると、視線をそのつぶらな瞳から、ゆっくりと窓の外に移す。

 様々な星座が映し出された夜空には、星形電球を思わせる無機質なお月様が浮かび、薄暗い寝室を照らしている。

 「……“ムウ”の力を操りし者」

 夜明けが来るのを待ち遠しそうにしつつ、白ドットの入った紺色のパジャマ姿をした女性はお月様を見つめる。

 「これが予知夢・・・なら、彼は私たちの、いえ、この宇宙の救世主になるかもしれない。……とにかく、早くルク様に伝えなくては」

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2026年1月2日 18:30
2026年1月3日 12:30
2026年1月4日 18:30

テール・エンドのドタバタ神記 阿屈洞摩 @tohma_akutsu

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