第31話:深淵の覇者を越えて
水面が爆ぜた。
湖の中心から、巨大な水柱が天へと伸びる。
だが、それはただの水ではない。
青白く輝く鱗がその中に見えた。水龍――深淵の支配者が、目覚めたのだ。
「操舵、任せろォ!!」
オーグさんが船尾へと駆け、巨大な舵輪を握る。
赤い肌に水しぶきが弾け、彼の腕が唸るように動く。
水龍がその巨体を動かして生み出した大波を、船体がギリギリの角度で傾き、それをかわす。
「ケビン!風圧制御を頼む!」
「はいっ!風と天空の支配者よ!我を阻む風を律せよ!ウインド・アルゲンタビス!!」
ケビンさんが詠唱を終えると、船の周囲に鳥の姿を模したような風の化身が姿を現す。すると、船の揺れが抑えられる。彼の補助がなければ、船はすでに転覆していただろう。
「アニー、行くぞ!」
「はい、ミリアリアさん!」
ミリアリアさんが剣を抜き、船首へと跳躍する。私はその背を追い、手を向けて構える。そして、私達が向かった先に、水龍の巨体が湖面を割って現れ、空を泳ぐようにうねる。
「空と大地を統べる、神話の守護者よ。その姿を顕現させ!我に仕えよ!!」
私がスキルでグリフォンを生み出すと、その獅子の体躯に私とミリアリアさんを乗せる。
「放て閃光!鳴らせ雷鳴!轟け!!サンダーボルト!!」
ケビンさんの雷が水龍の鱗に突き刺さる。
だが、硬い。水龍は咆哮を上げ、船へと水の奔流を放つ。空を舞う私達を穿つよりも、先に、足場である船を執ように狙う。
「バリア!」
メグーちゃんが両手を広げ、銀色の魔法陣が船を包む。水の奔流が防壁にぶつかり、霧のように散る。
「メグー!」
「メグーちゃん!ありがとう!!」
「う、うん…でも、長くはもたない!」
水龍が再び口を開き、今度は水柱を船へと叩きつける。
オーグさんが舵を切り、ケビンさんが風を操って衝撃を逸らす。
「アニー!もう少し近付けるか!!」
「はい!!」
ミリアリアさんの言葉に従って、グリフォンの背を叩くと、私の意思を正確にくみ取って、水面ギリギリを滑空する。
しかし、そんな私達に向かって、水龍は巨大な体躯を翻して大波を生じさせる。グリフォンは慌てて急上昇すると、それを待ち構えていたかのように、水龍は巨大な尾を叩きつけようとする。
「深淵なるもの嘆きに震えよ!這い出ろ!奈落草の種!!」
私は水龍の尾に向かって、突き出した手の平から種を射出する。周囲の暴風をものともせずに向かってくる種子の危険性を察知した水龍は、尾をくねくねと動かして、種子を躱した。
「器用な奴め。だが、動きは捕らえたぞ!!」
ミリアリアさんはそう言うと、グリフォンの背中から飛び降り、剣を下に突き立てながら落下する。
「ミリアリアさん、今です!」
「《剣閃・紅蓮》!」
ミリアリアさんの剣が赤く輝き、水龍の首筋を斬り裂く。青い血が霧のように舞い、湖面が染まる。
だが、これで終わりではない。
「ケビン、次!」
「はい!!天の怒りを知れ!これぞ神の雷!!唸れ!!ヴォルト・ストライク!!」
雷光が天を裂き、水龍の胸元へと突き刺さる。
轟音とともに水柱が爆ぜ、湖全体が震えた。
「沈むぞ!!」
オーグさんの叫びとともに、船が急旋回し、水龍の沈みゆく巨体を避ける。ケビンさんが風を操り、メグーちゃんが防壁を維持する。
…やがて、静寂が戻った。
水面は再び鏡のように滑らかになり、赤い光を映し出していた。
「…終わった?」
グリフォンが船上に降り立つと、私を静かに背から降ろす。
船上に降り立った瞬間、私はドッと疲れを感じる。
そんな私は息を切らしながら、ミリアリアさんの方を見る。無事に船上へ着地した彼女は濡れた髪をかき上げ、静かに頷いた。
「見事な連携だったな。これなら…第2層も、行ける」
彼女の背後には、動かなくなった巨大な水龍の亡骸が水面に浮かんでいた。
地龍の時よりも不利な船上で、地龍の時よりも確かな勝利を実感していた。船旅を始めて2日、その間に私達は間違いなく強くなっていた。
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