第4話 失語症

 遅い時間だったので病院の待合室に泊ることも考えたが、、市内のビジネスホテルが取れて、一度引き上げることにした。

 翌朝、子どもたちは学校へ欠席の連絡を入れた。午前中に検査や診察がるので、面会は午後からと言われていた。ホテルのテレビでは、死者はなく、重軽傷者20名、事故原因は、強風に煽られて中央分離帯に接触したと報じていた。

 ホテルの部屋で、壮太はずっと、同じことを考え続けていた。なぜ、福島に向かうバスに千草乗っていたのか?それは、いくら考えても分かるはずもない。

 ただ、腰が悪い義母のために帰省すると伝えたこと、先々月にも帰省すると言っていたこと、この2つは千草の嘘ということは確かだった。

 なぜ嘘をつく必要があったのか、なぜ福島に向かったのか、確かめる必要がある。


 翌日、6人で病室に行こうとすると、看護師から

「先生から病状の説明があります。談話室でお待ちください。」

 と声をかけられて、そこで主治医を待った。

「お待たせしまた。深山さんの担当医です。ケガについては昨日説明があったとおり、右手橈骨の骨折。2~3か月は動かせないと思います。左手は尺骨の不全骨折、つまりヒビが入った状態。尺骨は細いので1か月ぐらいでギブスは取れます。しばらくは左手で使って食事や日常生活を送ることになると思います。」

「では、すぐに退院できますね。」

 義母の言葉を遮るように、医師が続けた。

「問題は、事故で頭を打った影響です。深山さんは、失語症に陥っている可能性があります。」

「話せないということですか?」

 壮太の言葉に、医師はうなずいて、

「病名は、『運動性失語症』です。事故で頭を打った衝撃で、前頭葉のブローカ野の障害によって起こったと思われます。ブローカ野が障害されると、話されている言語を理解することはでき、どのようなことを返事したいかは頭に浮かびますが、自分の話したいことを言葉にすることができません。」

「つまり、相手が話していることは分かるけれど、言葉にして話せないということです。」

「治るのですか?」

「リハビリ次第で治る場合もあります。筆談ができる可能性もありますが、両手をケガしているので、当面は、ジェスチャーなどでコミュニケーションをとることになると思います。」

「分かりました。」

 壮太は、ケガで済んだと思ったところから、予想外の重症にショックを受けた。


 病室に向かうと、昨日より千草の目の光は力強さを増している感じがした。寝たまま、少し首を動かして、一人一人の顔を見ていた。

「ママ~。大丈夫ぅ。」

 子どもたちがベッドを取り囲むと、千草の目から一筋、涙がこぼれた。分かっているようだった。でも、医師の言ったとおり、一言も発することはなかった。

 命に別状はなく、病院も完全看護、というより外傷は、両腕だけなので、一度、家に戻ることにした。義両親も高齢なので、1週間後くらいに見舞いにくることになった。壮太と子どもたちも一度、帰宅して、土日を利用して見舞いにくるのがよいと話し合った。


 本人に確かめることは、できなくなった。別な方法を探す必要がある、と壮太は考えてハンドルを握った。

 

 

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