幽霊かと思ったら、鳩が出産してた
ぴよぴよ
第1話 幽霊かと思ったら、鳩が出産してた
まだ私が中学生の時。当時寮に入っていた。
部屋でのんびり持ち込み禁止の漫画を読んでいると、急に友人がドアを蹴って入ってきた。
「変な声がする。ベランダから聞こえてくるから、一緒に来てくれ」
そいつはそんなことを言いながら、私の腕を引っ張った。
変な声とはなんだろう。ワクワクしながら、友人の部屋に行った。
行くと、なるほど確かに「ぼーっ、ぼーっ」と怪しげな声がベランダから聞こえる。
「幽霊かもな」と私が言うと、友人は容赦なく私の腕を捻りあげてきた。
怪談なら死ぬほど聞いてきた我々だが、実際に怪奇現象に遭うと、やっぱり怖い。
「お菓子をやる。だからお前が見てきてくれ」
私の後ろに隠れながら、友人がベランダ前に私を立たせた。
少し怖かった私だが、「お菓子をやる」と言われると、弱かった。
思い切ってベランダの窓を開けた。
すると、そこには辛そうな表情の鳩がいた。産卵の真っ最中らしい。
「産んでる!」と私が叫ぶと、友人は「はぁ?!」と言って駆け寄ってきた。
妊婦は突然の人間二名の登場に、若干驚いてこちらを見たが、産むのに集中し始めた。
「鳩なんて汚くて嫌だ。早く追い出そう」
友人が箒を持ってきたので、慌てて止めた。
この生命の神秘がわからんやつだな。友人だって、産みの苦しみを経て生まれてきたのだ。一つの命が全力を出していると言うのに、叩き出そうとは何ごとだ。
ぼーっという声は、鳩がいきんでいる時の声だった。
まさか鳩の巣にされているとは、友人も気づかなかったらしい。
鳩って生き物は、建築基準や美的センスを無視した適当な巣を作ることで、有名な鳥である。巣の存在に友人が気づかなくても不思議はない。
「頑張れ、産まれろ!」私は応援した。
友人は、野鳥に愛の巣をつくられた事実にショックを受けていたが、私に約束のお菓子を渡して、一緒に出産シーンを見守ってくれた。
やがてポトっと卵が生まれた。合計三つほど、落とされた。
「産まれた!」
感動に胸が包まれた。ああ、よかった。喜び合おうと、友人にハイタッチを求めたが、無視された。
ああよかった。これぞ奇跡だ。こうして命は続いていくのだ。その瞬間に立ち会えて、感動ではないか。鳥類も人類も、痛みとドラマを得て産まれてくるのだろう。
「どうするんだ、これ。鳩なんて嫌だ。追い出したい」
「命をなんだと思っている!」
私に唾飛ばす勢いで叫ばれ、友人は萎縮した。なんとか友人を諭し、卵たちが立派な鳩になるまで、みんなで見守ることになった。
最初は嫌がっていた友人も、元気な雛が産まれると、態度を軟化させた。
気になって、何度も友人たちとベランダをそっと覗いた。
しばらく鳩見守り生活が始まった。
あんまり覗くと、親鳥が警戒するかも知れないと思ったが、この鳩はなかなかに図々しい鳩だったらしく、人間の視線など気にせずに子育てをしていた。
鳩ミルクをあげている様子を我々に見せつけていた。
「今日も鳩元気かな・・」と学校にいても、部活をしていても気になった。
寮に帰ると、真っ先に友人の部屋に鳩を見に行ったものだ。
鳩は成長が早いのか、一ヶ月かそのくらいで雛は大きくなっていた。
友人のベランダは、賑やかな家族の鳴き声でやかましかったらしい。
「それももうすぐ終わると思うと、寂しいな」と友人は語った。
やがてベランダの家族は姿を消した。雛たちの巣立ちを見送ることはできなかったが、元気に旅立っていったのだろう。
残されたのは、壊滅的に建築センスのない枝でできた住居のみであった。
短かったが、命の尊さをじっくりと感じた一ヶ月であった。
「鳩がいなくなってよかった?」と友人に訊くと、
「ああ」とちょっと悲しそうに呟いていた。
卵から産まれて、一ヶ月で巣立っていく。人間とは違う仕組みで生きている鳩。
私たちも元は卵から始まったのだ。
中学生にもなると、人が産まれる仕組みなんかに、あまり良くない意味で興味を持つ年頃なのだろうが。鳩との出会いは、美しい思い出として私の中に残っている。
「鳩ってどうやって交尾するんだろ?聞いた?」
何度も友人にしつこく聞きすぎて、頭をはたかれたことは、あまりここでは明記しないことにする。
もらったお菓子は美味しかった。
幽霊かと思ったら、鳩が出産してた ぴよぴよ @Inxbb
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます