第4話:死の呪いがバグにしか見えなかったので、デバッグしてみた

翌朝。俺が宿のロビーに降りると、スタッフ全員が音速で土下座した。 どうやら昨夜、ロイヤルスィートで白目をむいて運ばれた伯爵の件が、いい感じに尾ひれをつけて広まったらしい。


「あ、あの! 昨夜の不手際、誠に申し訳ございませんでしたぁ!」 「いえ、別に気にしてないんで。チェックアウトお願いします」


(というか、あの伯爵、まだ二日酔いでうなされてるんだろうな。……まあ、いいか。自業自得だし)


俺は逃げるように宿を出て、足早にギルドへと向かった。 目的は一つ。昨日お世話になったセリアさんに、まともな飯屋を教えてもらうためだ。


ギルドに入ると、昨日以上の視線を感じる。 だが、カウンターの奥で、相変わらずボタンが悲鳴を上げそうな制服を着たセリアさんが手を振ってくれた。


「おはよう、ハルト君。昨日は大変だったわね? ギルドマスター、あれから『私は……光を見た……』って呟きながら、まだ花壇の草を眺めてるわよ」


「……すみません。今度、目覚まし用のパッチでも当てときます」


「ふふ、冗談よ。それより、約束通り美味しいお店、教えてあげましょうか?」


セリアさんが身を乗り出し、俺の耳元に顔を近づける。 ……あかん。また顔が熱くなってきた。 彼女の吐息が耳に当たって、俺の脳内のシステムログが「パニック」で埋まりそうになった、その時だ。


「……お願いです! 誰か、この子を助けてください!」


ギルドの片隅で、悲痛な叫びが上がった。 見れば、ボロボロの服を着た老騎士が、一人の小さな少女を抱きかかえて震えていた。 少女の顔は土気色で、その周囲からは黒い霧のような禍々しい魔力が漏れ出している。


「あれは……『魔力暴走の呪い』ね」


セリアさんの顔から笑みが消えた。


「10歳前後で発症して、最後には魔力が爆発して死に至る不治の病……。聖女様の加護があっても、延命するのが精一杯のはずよ」


周囲の冒険者たちも、同情の目を向けながらも距離を取る。 暴走に巻き込まれたら命はないからだ。


(……不治の病、ね。俺の目には、そうは見えないんだけどな)


俺は意識を集中し、少女のステータス画面を呼び出した。


【リア・エヴァンス:個人情報】

状態:絶望(魔力暴走:進行度 98%)

余命:あと 180秒

運命:10歳で死亡するようシステム固定されています。


「余命180秒って……。カップラーメンも作れないじゃないか。っていうか、なんだこの『死亡固定』って。ただの設定ミス(バグ)だろ、こんなの」


俺はセリアさんに「ちょっと失礼」と言い残し、少女の元へ歩み寄った。


「おい、坊主! 近寄るな、巻き込まれるぞ!」


老騎士の制止を無視して、俺は少女の額に手をかざす。 システムウィンドウが真っ赤に点滅し、警告音を鳴らしている。 俺はそれを無視して、デリートキーを叩くように指を動かした。


「よし。……書き換え(リライト)、開始」


リライト・パッチ 1.09 適用:

・「10歳で死亡」という運命設定を完全に 削除 しました。

・魔力暴走のパラメータを、すべて「潜在魔力」へと 変換・圧縮 しました。

・ついでに、体力を 最大値まで回復 し、お肌のツヤを 20%アップ しておきました。


その瞬間。 少女の体から溢れていた黒い霧が、一気に中心へと収束した。 霧は眩い黄金の光へと変わり、彼女の体内に吸い込まれていく。


「……あ、れ……?」


少女がゆっくりと目を開けた。 土気色だった肌は、文字通りリンゴのように赤らみ、瞳には力強い輝きが宿っている。


「リア……!? 呪いの紋章が……消えている……?」


老騎士が絶句し、ギルド全体が静まり返った。 聖女でも救えなかった命が、名もなき少年の「おまじない」一つで完結してしまったのだから。


「……お兄ちゃん、だれ?」


「通りすがりの、ただの『生活魔法使い』だよ」


俺はポイっと少女の頭を撫でて、立ち上がった。 背後で老騎士が「神か……神の再来か!」と叫びながら号泣し始めたが、聞こえないふりをする。


(ふぅ。あんな『即死バグ』、放置してたら世界の評価が下がるだろ。……まあ、いいか)


俺は呆然と立ち尽くすセリアさんの元へ戻り、少し照れくさそうに頭を掻いた。


「セリアさん、お待たせしました。……で、美味しいお店、どこでしたっけ?」


セリアさんは、こぼれ落ちそうなほど目を見開いた後、くすっと艶やかに微笑んだ。


「……もう。ハルト君って、本当に『生活』の規模が大きすぎるわね」


セリアさんは、俺の腕に自分の豊かな胸を押し付けるようにして腕を組んできた。


「いいわ。お姉さんが、とっておきのお店までエスコートしてあげる。……あの子を助けた『報酬』、たっぷりと覚悟しておきなさいね?」


「っ!? はい、喜んで!」


俺は再び顔を真っ赤にしながら、セリアさんに連れられてギルドを出た。 ……背後で、リアと呼ばれた少女が「私、あのお兄ちゃんのお嫁さんになる!」と宣言していた気がするが、きっと気のせいだろう。


【リア・エヴァンス:更新後のステータス】

状態:絶好調(真の力に目覚めました)

魔力:測定不能(∞)

属性:ハルトへの絶対的な憧れ


俺の知らないところで、世界最強のヒロインが爆誕してしまったが、今の俺には、隣を歩くセリアさんの柔らかい感触の方が、よっぽど重大な問題だった。


(まあ、いいか。今日は楽しい一日になりそうだ)


俺の「都合が良すぎる」二度目の人生は、さらに加速していく。

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2026年1月2日 19:00
2026年1月3日 19:00
2026年1月4日 19:00

俺のスキルが『改変者(リライター)』だった件。精霊も運命も、俺の都合で書き換えてやる ミル @mirupisu

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