生物の卵

❄️風宮 翠霞❄️

何かの生物が生まれる卵

「何かの生物が生まれる卵を育てよう!

 ・生まれたものは、何があっても最後まで育てきろう!

 ・きちんと、卵といっしょに入っているマニュアル通りに育てようね!

 ・この卵を売る会社も、この卵を配る学校も、もし困ったことになった時にも責任は取らないよ!」


 学校で、そう書いてある紙が配られて、謎の生物せいぶつが生まれるらしい卵を、一人一つ選ばないといけなくなった。

 私はサボテンも枯らしてしまうくらい、生物せいぶつのお世話が苦手なのに、卵をお世話するなんて、無理だと思ったけど……やらないとダメみたいだったから、とても困った。


 だって、もしも私だけ育てるのに失敗したりしたら、みんなに笑われると思ったから。

 朝顔も、ミニトマトも、マリーゴールドも、ペットボトルで育てる稲も、私は全部枯らして、みんなに笑われていた。


 だから、先生が持っていて、「ここから選んでね」と言われた卵の箱の中から、よくわからないサイズとか色の卵ばかりの中……一番見覚えのある卵を選んだ。


 ニワトリの卵だ。


 おばあちゃんがニワトリをたくさん飼っている仕事をしている人だから、私はどんな卵が並んでいてもニワトリの卵だけは見分けられるし、ニワトリなら、おばあちゃんに協力してもらいながらなら、なんとか最後まで育てられると思ってそれを選んだ。


 自分だけだったら少し……少しだけ不安だったから、帰ってから、お母さんとお父さん、おばあちゃんに、その授業について話すのと一緒に卵も確認してもらって、「確かにニワトリの卵だね」と言ってもらいもした。


 それなのに、頑張ってお世話した卵から生まれてきたのは、生肉だった。




 生肉。

 ……なまにく。




 焼いていない、赤い色をしたお肉のことだ。


 ぐにゅぐにゅしていて、かわいくない。

 全然、全く、かわいくない。

 どちらかというと、気持ち悪い感じの見た目をしている。


 説明書によると、コイツの食べ物は自分以外の生肉で、焼いた肉だと、体の一部が焼けた肉になってしまうから嫌らしい。

 贅沢な。


 嫌々、とても嫌々、仕方がなくエサをやっていたら、毎日3回、エサとして出された自分以外の生肉を吸収して、少しずつ大きくなっている。


 先生に「何か『せいぶつ』が生まれてくると書いてあるのに、どういうことですか!」ってお母さんが言っても……。


「書いてあるのは、何か『なまもの』が生まれてくるというものです。『せいぶつ』が生まれてくるなど、一度も言っていませんし、書いてもいません」


 と返ってきて、どうしようもなくなった。


 どうやら、卵は『何かの生物せいぶつの卵』ではなく、『何かの生物なまものの卵』だったらしい。

 意味がわからないし、最悪すぎる。


 でも何より意味がわからないし最悪だったのは、同級生達は生まれた生肉を、各自かわいがっている様子なところだ。

 中には名前をつけてかわいがっている奴もいる。

 その全員が、つけている名前が自分と同じ名前だったけど。




 それから数日後に、気持ち悪いなとは思いながらも一応育てていた生肉のお世話を、私はやめた。

 同級生達からは案の定笑われたけど、それも構わなかった。

 それよりも私は、これ以上育ったらどうなるか悟った生肉を育てる方が、無理だった。


 だって、大きく育ってきたと写真を見せられた同級生の生肉が、同級生とほとんど同じ姿になってきてたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生物の卵 ❄️風宮 翠霞❄️ @7320

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ