Chapter.2『英雄は亡霊となりて』
『……おい、起きろ』
頭が痛い。とんでもない頭痛だ。
『おい、起きろって』
脳みそがガンガン殴られてるみたいだ。
『……起きろって、言ってるだろ──!』
次の瞬間、顔に痛みが走り、視界が広がる。俺は倒れていたらしく、土が固まった地面に、血液のようなものが流れていた。
「ぅ……。あれ? 俺、死んだはずじゃ……」
体を起き上がらせ、チェンソーで刻まれた胸元辺りを触る。が、傷口は閉じていて、血だけがこびり付いていた。
『……奇跡的にお前は助かった。命拾いしたな』
頭の中で霞んだ男声が。俺は周囲を見回す。
「……誰……!?」
しかし、そこには誰もいない。《ルナ》すらも、見当たらなかった。
『俺だ、そう慌てるな。俺はお前の中にいる』
「……俺の中に? どうやって入った……?」
『……詳しいことはどうだって良いだろ? 俺だって、何が起きてるか分からない』
「だとしても、自分が誰かは分かる……!」
『……落ち着けよ、俺は《ウサギノ》だ。元々、この村を救っていた《英雄》らしい』
《ウサギノ》と言うと、あの《英雄》?
なぜ、俺の中にいる。変に誤魔化しているのではないか。
「……本当は?」
『はあ……、俺は《ウサギノ》本人だ。こんな体、すぐにでも出ていきたいが、そうすれば君が死ぬ』
「? もう、死んでるんじゃ……」
『俺が、死にかけの体に入ったんだよ。だから、今君の心臓は、俺の魂ってことだ。つまり、俺が死ねば君も死ぬ。君が死ねば、俺も死ぬ』
「そんな、馬鹿げた話……」
『俺も馬鹿げてると思うよ。けど、キョンシーも存在してて、記憶喪失になる注射器まで存在する世界だ、信じるしかない』
《ウサギノ》のその言葉が、おとぎ話で見た内容と半分一致する。
「……本当に《ウサギノ》なんだ。ていうか、《ルナ》は? 白髪の少女を見てない?」
『最初からそう言ってるだろ? それと、その《ルナ》って名前の少女なら、お前を殺した男に連れて行かれていた』
「……無事、なのかな」
『……それは何とも言えない。とにかく、隣の村の地下に向かってくれ』
俺は立ち上がり、落ちていたハンドガンを拾う。
「隣の村? そこに《ルナ》がいる……?」
『…………ああ、恐らく……』
《ウサギノ》の命令を呑み、俺は銃を構えながら隣の村へ移動する。その道中、怪しげな影を見つけた。
「……《ウサギノ》、橋の前に、人がいる」
『……人? そうか、もう夜なのか』
謎めいた発言に首を傾げ、俺は橋へ向かう。立ち尽くす男の肩を叩き、俺は声を掛けた。
「あの、大丈夫ですか……っ!?」
男が正面を向いた時、顔にお札が貼ってあるのに気がつき、後ろへジャンプする。どうやら、彼は人間ではなく、キョンシーのようだ。
「……分かってたなら教えてくれたって……!」
『明らかに様子が変だった、普通気付く!』
ハンドガンを構え、俺は頭目掛けて引き金を。
──パァンッ!!
銃声音が響き渡り、キョンシーが仰向けに倒れ、血が流れる。
「……やった。倒せた……?」
『……こいつらは基本倒れない、起き上がる前に進むのをオススメする』
「……不死身?」
『かもな』
それから俺は走って渡り、草木に囲まれた暗い道を進んだ。そして、道が開けたのを確認して、差し込む月の光と共に、焦げた村を目にする。
この村には、野生の生き物たちが生きていて、村の巨大な建物には肉塊のようなものがこびり付いていた。
「……それで、次は?」
『地下への入り口を探せ。九十年間賭けても、全く見つからなかったが』
「九十年間も……? 元々この村にいたんだし、分かるんじゃ……」
『俺は君のおばあちゃんが若い内に死んでる。亡霊になったせいで、誰も俺の声は聞こえてなかったよ。それに、俺は長い間、寝てたんだぞ?』
「それ、本当に九十年探してた?」
『……この体から、出て行っても良いんだぞ』
「……ちょ、それは困る!」
脳内で響く、《ウサギノ》の溜息。俺は足を進めつつ、地面に目を向ける。ざっと一週回ってみて、一箇所だけ、凹んでいる部分を見つけた。から、俺は勢い良く踏み付ける。
──ガラララッ!
シャッターのようなものが開く音がして、土だった地面に穴が空き、ハシゴに変わっていた。
『……俺の九十年間、何だったんだ』
「……まあ、見つかったから、良し……?」
足をハシゴに掛け、少しずつ降りていく。足の平が地面に触れたのを確認して、俺は飛び降りた。そして、振り返ってみれば、そこは実験室のような場所。
「……ここは……」
『……エリアの実験室だ。これでようやく、《ギルド》に復讐が果たせる』
「…………復讐? 《ルナ》は、どこに……」
《ルナ》がいると聞いて、信じてきたのに、そこには薬品だらけの密室で、俺は怒りを覚えた。
『……騙して悪いな。けど、これが現じ……』
──「ふざけんな!」
壁を思いきり殴り付ける。土煙が舞い、拳が汚れた。俺は下唇を噛み締め、血の味を感じる。
「……何が、《英雄》だよ? 俺は、あんたを信じて、言うとおりにしたのに……!」
実際の《英雄》は、聞いていた話と大違いだ。
『……本当に、悪かったと思ってる。許せなんて言わない。けど、俺の言うとおりに動いてくれ』
「人を騙しておいて、また駒になれって……? あんたの指示は聞かない。《ルナ》を見つけ出して、救難信号の調査を続ける……」
『……そうか、そっちがその気なら、俺だって容赦はしない──』
《ウサギノ》の声色が変わり、脳を何かが強く叩く。意識が、飛んでしまいそうだ。
『お前の体を奪う……! 言ってた女は、後から俺が救ってやる──!』
「……ぅぁ゛っ……! 絶対、渡さない……!」
《ルナ》はこんな駄目な俺でも、避けたりせず、ずっと支えてくれていた。彼女に恩も返せないまま、死なせる訳にも、死ぬわけにもいかない。
『主導権は、意地でも譲らないつもりか……! 仕方ない、体だけは、奪わないでおいてやる……。だから、お前は証拠になる薬を探し出して、任務が終わり次第、それを上の連中に提示しろ』
その言葉の後、頭痛が止んだ。一瞬フラつきつつ、机に体重をかけ、呼吸を整える。
「…………なんで、俺が。そのエリアって名前も、本には書いてなかった」
『……書かれる訳がない、一部の人間しか知らない。それに、エリアは俺を記憶喪失にした張本人なんだ。あいつだけは、許さない……』
《ウサギノ》を記憶喪失に? 彼が記憶喪失だったことすら、初めて知った。
『……とにかく、どこかに薬と、書類があるはずだ。探し出してくれ』
「……わかった。その代わり、ちゃんと《ルナ》を見つけるの、協力してくれ。それと、裏切りはなし……」
『……交渉成立だ。早速、探してくれ』
俺は机の引き出しなどを開け、色々な書類に目を通す。そこには、多大なる請求書や、薬品の情報。調合法などが書かれた本や、不気味な目玉、肉塊などが出てきた。
『凄い量だ。そこまでして、俺を最強兵器にしたかったのか……?』
「最強兵器……?」
『……気にするな、こっちの話だ』
俺は書類を一つにまとめ、丸く包んでリュックに積める。また、《イレイザー》と書かれた薬品を手に取り、中の緑色の液体を見つめた。
『イレイザー、消す。その薬で間違いない。ある限り、全部奪っていい』
「わかった。隣の、赤い薬品とかは……」
《ウサギノ》に聞いたその時、ガンっというハシゴを降りるような音が聞こえる。俺は、急いで机に潜り込み、降りてきた赤い服と黒いハットの男を目にした。
「……あれれれっ、棚が上げっぱなしだ。それに、エリアが作った薬が消えてる。誰か、勝手に忍び込んでるんだなぁ」
全身に鳥肌が立つ。その独特な喋り方と軽い声に圧を感じ、その場で固まった。
『……まずい、バレたかもしれない。クソッ、なんでローグが生きてる……!?』
ローグ、目の前のこの男のことか。
《ウサギノ》の焦り様から、かなりまずいことになっていることを知る。
「……あぁ、そういえば。白髪の女の子をジェイが捕まえてたな。だとすれば、あと一人の方か、殺したと言っていたけど、仕留めそこなったんだねぇ」
ローグは溜息を吐き、その場で地面を三回足で鳴らした。その直後、ローグがコウモリに変わったと思えば、地面が抉れ始め、中からチェンソーを持った筋肉男が現れる。
『……おい、何してる! そこから出ろ──!』
《ウサギノ》の怒号が頭で鳴り響いたと思えば、体が勝手に動き、机がチェンソーで斬られる寸前で、男の足元を潜った。
「……ジェイ、その餓鬼を仕留めろ」
「……わかっタ」
置いてあったはずの薬品は全て回収され、手に入れられたのはリュックに入っている分だけ。ローグの声が響いた後、チェンソーを鳴らすジェイが、俺に向かって思いきり振り上げる。
『……ハシゴを登れ! すぐにだ!』
またしても体が勝手に動き、地面にチェンソーが落下した。土煙が上がる中、ギリギリでハシゴを上がりきり、俺は村の家に駆け込んでいる。
『……お前、死にたいのか!? なんで躱そうとしない! あと少しで、俺達二人とも死んでたかもしれないんだぞ……!?』
「……仕方ないだろ……! こういう系の任務、初めてなんだ!」
『……お前、本当に特殊部隊か……? よく、そんなんで入れたな……』
俺の《落ちこぼれ》を貶す《ウサギノ》。自分の弱さを自覚しつつ、言い合いをしていると、すぐそこでチェンソーの音が鳴り響いた。
「……この音って」
『……あいつに決まってるだろ。こうなったら、俺に体を変われ……!』
「なんで体を……?」
『……バカも休み休みに言え、俺なら戦闘に慣れてるだろ。あいつを倒す……!』
扉の隙間からチェンソーが覗く。壊され、ジェイが立ちはだかった瞬間、俺は体を《ウサギノ》に譲った。
瞬間、振りかざされたチェンソーを俊敏に躱し、腰からハンドガンを抜く。銃口をジェイに向け、目に向かって発砲した。
「『さあ、復帰戦の始まりだ──』」
俺とウサギノの声が混ざったような声。ジェイは目を眩ませ、周囲に首を振っていた。
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