『HERO-VILLAGE 2』

詩羅リン

Chapter.1『廃村』


 昔々、二つの村を救った英雄がいました。

一つめの村は、

《ヒーロー》という《英雄》が。

二つめの村は、

《ウサギノ》という《英雄》が。


「おばあちゃん。英雄は、二人いるの?」


おばあちゃんにおれは尋ねた。


「いいえ、一人よ。おばあちゃん、昔に救われたことがあるの。けれど、彼は村を救った後、もう、目覚めることはなかったわ」


「死んじゃったの……?」


問いかけると、おばあちゃんは黙り込む。本を閉じて、おれの胸を撫でた。


「皆のここに、今も生きているわ。もちろん、おばあちゃんの中にもね……」


悲しそうに笑うおばあちゃんを見て、おれは自分の胸に手を当てる。ドクドクという音だけが聞こえて、おれは言った。


「おれの心臓の中で、暴れてるの?」


「……いいえ? それは、心臓の音よ。おばあちゃんが言いたいのは、心の中の話」


それを聞いて、おれは首を傾げる。


「今は分からなくても、いつかは分かる。きっと、あなたも《英雄》に出会えるはずよ」


その言葉の後、おれの鼻を何かが摘まみ、呼吸が出来なくなった。


「ちょっ──!?」


視界が切り替わり、目の前には鼻を摘まむ白髪ツインテールの少女が映る。そこで俺は、夢を見ていたことに気が付いた。それも、幼い頃の夢。


「また寝坊って、相変わらずの落ちこぼれようね。《ゼロ》──」


皮肉のように言葉を吐き捨て、空色のパーカーを羽織る少女。青い宝石の瞳と特徴的な尖った耳をしている彼女は、ハーフエルフの《ルナ》。


特殊部隊ラビットの隊員で、俺ーー《ゼロ》の指導係。俺は、部隊の中でも落ちこぼれで有名で任務は猫を探したりとそれぐらい。憧れの《英雄》とは、まだまだ程遠い。


「もうちょっと、真面な起こし方が良かったんだけど……。まあ、起こしてくれてありがとう」


「……ふんっ、こうでもしないと《ゼロ》は起きないから。ていうか、そんなこと言ってないで、早く支度して!」


「……? 支度? なんの?」


本部は引っ越しでもするのだろうか。腑抜けた顔でいると、《ルナ》が「やれやれ」と溜息を吐いて、机の上に置いてあるハンドガンを、俺の手に握らせた。


「初めての、ちゃんとした任務。廃村からの救難信号についての調査!」


その言葉を聞き、昨日のことを思い出す。司令官から初めて、まともな任務を任せられたんだ。


「……あー、そういえばそうだった。先に車に乗ってて。俺、準備してから行くよ」


「……どれくらい掛かる訳?」


「どれくらい、んー……、すぐ終わる」


「そう言って前は、一時間も待たされたけど?」


一時間も待たせた記憶はないが、別に良いか。なるべく早く終わらせるようにしよう。


それから俺は、部屋を出て更衣室に向かい、戦闘用スーツを装着。武器と治療薬を適当にリュックにつめて、車に乗り込む。


「……四十五分。《ゼロ》にしては早い方ね」


「ほんと、ゼロっちってば準備おそ~」


運転手の金髪ギャルーー《コイン》と《ルナ》が前に座っており、一緒に時間を測っていた。


「俺なりに急いだつもりなんだけど……」


「せめて十分よ。《コイン》、車出して」

「おけまるー。しっかり掴まってて」


次の瞬間、シャッターが開き、強い衝撃が。気が付けば森林の中を走っており、今の衝撃で車酔いを起こした。


「おえっ……」

「《コイン》、飛ばしすぎ……」


相変わらず、このメンバーはいつもこうだ。しっかりしているのが《ルナ》で、他二人、《コイン》とゼロはムードメーカー。


窓を開けて、俺はスーツのマスクを外す。顔を窓の外に出して、気持ち悪さを解消した。


「……ちょっと《ゼロ》、自然が汚れる……」


「こればっかりは《コイン》のせい……」


「……えー、二人とも酔うの早くね? 飛ばしすぎたのはマジめんごって感じ~?」


そんなこんな、なんやかんやで、村の前に辿り着き、俺達は車を降りる。


「……ここが廃村?」


「……みたい。最近まで、人が生活してた感じがするし、救難信号はここからで間違いなさそう」


目の前にそびえ立つ村には、鳥など、野生の生き物がいない。少し、砂や土、埃を被っている家が多いが、木とレンガで出来ていて、その頑丈さが目立つ。井戸近くには、木製のバケツから水が零れていて、転がって発見できた。


その様子を見て、俺はどこか、懐かしく感じる。


「……この村、どこかで見た気がする」


「? どこかって、どこよ?」


だいぶ昔の頃、俺が幼少期の時。丁度、今日の夢と重なった。


「昔、おばあちゃんが読んでくれた絵本に、この村っぽいのが書いてあったんだ。しかも、その村は《英雄》が救った村で……」


「そんな村、実在するわけないでしょ? 《英雄》なんて、おとぎ話に過ぎない。十六にもなって、信じるバカは《ゼロ》くらいよ」


辛辣な言葉に俺は俯く。その時、異変に気づき、俺は周囲を見渡した。


「……あれ、《ルナ》。車は……?」


《コイン》が乗っていた車がない。《ルナ》も視線を泳がせるが、やはり見つからない。


「戻ったんじゃ、ないの……? 」


「……エンジンの音がしなかった。それに、いつもは任務が終わるまで、待っててくれたはず」


血の気が引き、背筋に寒気が走る。俺と《ルナ》は腰からハンドガンを手に取り、引き金に指を。

 瞬間、どこからか現れたカラスが、上空を舞い始め、不気味に泣き声を上げた。


「……《ゼロ》、引き返さない?」


「車も無しに、どうやって……?」


普段、冷静で強気な《ルナ》が弱音を吐く。どこからか、ウィーンという機械音が響き、《ルナ》が叫んだ。


「《ゼロ》、後ろ──!」


「……っ゛!?」


しかし、後ろを振り返った頃には遅く、俺は何者かにチェンソーで切り刻まれる。自分の血飛沫を目にし、目の前が真っ暗になった。

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