第2話
30分遅れで着いた体育館からはバッシュの鳴りもボールのバウンド音も聞こえない。ただ、喋り声と笑い声が渦巻くようにあふれていた。
原因はわざわざ聞かなくても分かっている。クリスマスだとかイブだとか、バスケどころじゃないんだろう。そんな時に部活なんて意味があるんだろうか。
バカ騒ぎする部員の真ん中にいるのはキャプテンとマネージャー。公認カップルの二人は昨日のイブにとうとう【できあがった】らしい。
マネージャーの
「ついにお前もパパになるのかぁ」「ばか、早ぇ! そういうダイレクトなのやめろよ!」ジャレ合う部員と聖人。それを見ている美歌も恥ずかしそうな顔をするだけで否定もない。清い関係とやらをやたら自慢していた気がするんだが。
まったく。うんざりだ。
今、ここで集まる意味はあるのか?
今日、部活なんて意味があるんだろうか。
美歌の身体の中にある大きな忌まわしい細胞にまとわりつく貧弱なオタマジャクシの群れが透けて見えた気がして吐き気がした。
卵はやっぱり大嫌いだ。
「誠史、顔色悪いよ」
誰かの声が不意に間近に聞こえた。肩に置かれた手を振り払った。
「帰る」
それだけ言って体育館を出た。
今日、ここにいる意味がない。
家に帰った。
冷蔵庫を開けて、白く冷たい塊が並んで入るプラ容器を掴み出す。ゴミ箱のフットペダルを踏んで蓋を開けた。生ゴミの詰まったその箱の上でプラ容器を開けた。
卵なんてなくなればいい。
生ゴミの中で互いにぶつかり割れてだらしなく中身をはみ出させる卵。
ゾッとする。
せめてヒヨコがすでに入った時に生まれてこい。そうすれば少なくともオレがあのおぞましいものを口に入れなくて済むんだ。
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