第3話


「おや、あなたはビャクヤ嬢ではないですか」


 と、彼はビャクヤのことを知っているようだ。


 それもそのはず、ビャクヤは宇宙でも有名である。

 実際、次女ではあるが王族なのだから。


「初めまして、私はムーラムと申します」


 細身の成人男性だった。が、本来の姿ではなく、地球人に合わせて変化させた姿だろう。

 ビャクヤが目立つ容姿をしているのとは真逆で、彼は馴染むことに特化している。ビャクヤが話しかけなければ、すぐに背景へ紛れてしまう存在感の薄さだ。


 おかげで、彼は道行く人をサブリミナル的に洗脳することができる。

 結果が出るまでは長く、強制力も薄いが、これが積み重なっていくと……いずれは地球侵略へ繋がっていくはずだ。

 時間が経てば経つほどに、彼の作戦は強固なものになっていく――。


 同時に。

 ビャクヤの侵略の邪魔にもなってくる。……邪魔をするな、とは言えない立場だ。競合相手がいるのは当然、地球侵略は奪い合いである。


 誰が先に勝負をかけるか、なんて譲り合いはなかった。

 競合を足止めし、侵略した者が勝つ世界。


「……ラバル星人……よね?」


「ええ、新興勢力ではありますが、以後、お見知りおきを。――ワッツナイト星人、ビャクヤ嬢」

「……悪いけど、今はわたしの任務中なのよ。邪魔はさせないわ……!」

「では、止めてみればよろしいのでは?」


 ビャクヤが胸元に手をやり、大胆に色気を出そうとしたところで――しかし、意中の彼に通用しなかった失敗が尾を引き、一瞬の躊躇が生まれた。

 その躊躇いを見抜いたラバル星人が、高速回転するように動いている眼球をビャクヤへ向けた。


 相手の目を見てしまったビャクヤの脳が、回転をきっかけに『異物』の侵入を許してしまう。

 洗脳するための光がビャクヤの脳内を巡った――「しまっ」


「残念ですね、ビャクヤ嬢。この程度で落ちてしまわれるとは」


 あっという間に膝を落としたビャクヤが、虚ろな目でラバル星人を見上げた。


「ふふ……これも報酬としましょうか。絶世の美女……あなたのお裸をいただき、」


 その時、人間には聞こえない銃声が鳴り響いた。

 もちろん、宇宙人には聞こえている――なぜなら彼女が用意したものだからだ。

 ビャクヤが見たのは、背後……透明な宇宙拳銃を握り締める、朝凪ひのだった。



「朝凪、くん……?」


「これ、白姫さんが学校に隠していたものだよ。早々にくすねておいて正解だった……勝手に使っちゃったけど、もういいよね? ピンチだったみたいだし」


 弾丸を受けたラバル星人がその場にうずくまった。

 彼の影の薄さによって、危機的状況が周りに察せられなくなっている。

 人の目に触れなくなる力も発動しているため、たとえビャクヤの美貌であっても人の目を引き付けることはできない……なのに。


 朝凪ひのは、この空間に入ってこられている……?


「地球人、だと……? どうして宇宙アイテムを使って――」

「それは簡単な話、ぼくも知っているからね……もっと言えば、あなたの洗脳も通用しないよ。知っているからこそ、耐性があるわけだから」


「どう、して……あなた……」


「人の目に触れないだけじゃ足りないと思ったから、騒ぎにならないようにこっちでも手を回しておいたよ。……白姫さん、ひとつ、約束をしてくれるなら、きみの正体を誰にも明かさないと誓うよ。そして、決して見捨てない……どうかな?」


「……、ええ、助けられたわ。だからもう――あなたの好きにすればいいでしょ……っ」

「そういうことなら……分かった」


 朝凪ひの。彼がスマホを片手に、連絡を取った……相手は――――



「父さん、母さん、手伝ってほしいんだけど」





 ――昔の話。

 朝凪家に墜落した丸い宇宙船があった。

 その事故によって、朝凪ひのの両親は死んでしまった。

 まだ赤ん坊だったひとりの、『おとこのこ』を残して――――



 亡くなった両親に代わって、ワッツナイト星人のふたりが、腕の中のおとこのこを育てることを決めた。

 あれから――、おとこのこは立派な少年に育った。名は――朝凪ひの。


 途中で、両親の正体が宇宙人であることが分かった。本当の親はもう既におらず、血の繋がりがない赤の他人が、今の両親だった――

 だけど、彼からすればそんなことはもう、どうだってよかったのだ。

 両親は、だってもう、両親だから。


「……逃げてきたんだ」

 と言った。


 だから両親は母星へ帰れないのだと。

 そして、息子はこう言ったのだ。


「ずっとうちにいればいいよ。というか、離れたくないよ――だって、ぼくの父さんと母さんなんだから」


 どうしてビャクヤに惹かれないのか。

 その答えは、もちろん、惹かれてはいる。魅力的だ。


 だが、両親が『宇宙犯罪者』である以上、ビャクヤに見つかるわけにはいかなかった。

 ビャクヤと親密になれば親の正体がバレてしまうかもしれない。だから、両親を守るため、朝凪ひのはビャクヤの好意を受け取らなかったし、自分からなにもしなかった。


 誘われて断ると、逆に疑われそうだから無下にこそしなかったけれど……。

 ちょうどいい距離感で維持したかったのだ。

 だけど、それももう、難しい……。



「…………言えない、よなあ……」



 絶対に明かせない秘密がある。


 親を守るために……、この恋は、早々に切り捨てるべきなのだ。





 ・・・おわり

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まずはあなたを侵略してやる! 渡貫とゐち @josho

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