卵から生まれるモノ2

 王宮に辿り着き、玉座の間でシオンは卵を王に献上した。


「盗賊シオンよ、よくやった」


 王はねぎらいの言葉をかけたあと、宮廷魔術師に卵を改めさせた。

 シオンは盗賊である。

 偽物を仕立てて持ってくる可能性を疑われても仕方なかった。


 宮廷魔術師がしげしげと卵を観察したあと、みるみる顔が青ざめる。


「こ、これは……竜の卵ではありません!!」


 宮廷魔術師の言葉に王も血相を変え、シオンを睨みつける。


「貴様、やはり余を謀るつもりだったか!?」


 シオンは混乱した。


 そ、そんなはずはない!!

 この卵は間違いなくアグナ=ヴァルムが温めていたものだ!!


「お待ちください!! おそらく盗賊シオンは嘘を言っておりません!!」


 シオンは宮廷魔術師が自分を嵌めようとしているのかと思ったが、当の魔術師が弁護した。


「これは幻獣カクォルの卵です!!」


「幻獣カクォル?」


「はい、鳥の幻獣なのですが、他の種族の巣に托卵する習性があります」


 托卵とは、自分の卵を別の親の巣に紛れ込ませて育てさせることで、同種の中で行われることもあれば、他種に行われることもある。


「では、幻獣カクォルがアグナ=ヴァルムに托卵し、アグナ=ヴァルムは自分の卵と思って卵を温めていたということか!?」


「はい、おそらく……」


 王は落胆し、玉座でうなだれた。

 だが、それ以上のショックをシオンは受けていた。


 そんな……

 それじゃあ……

 アグナ=ヴァルムは騙されて、他人の卵を自分の卵と思って温めていたのか……

 あんなに大事そうに……

 あんなに愛おしそうに……

 そして、自分は……

 そんなものを必死に盗んできたのか……

 罪の意識に苛まれながら……

 泣きながら……


「はは……」


 シオンはその場に崩れ落ち、笑いながら涙を流した。


 そんなシオンをよそに、宮廷魔術師は必死に上申する。


「陛下、竜の卵でなかったことは誠に残念でございました。しかし、幻獣の卵はこれもまた世にも珍しきものにございます。あるいは、竜の卵以上に、陛下のお命を延ばす可能性も……」


 その言葉に王の表情が明るくなる。


「ふむ……目論見と異なったが、目的が果たされるならば、まあ、よい。盗賊シオンよ、ご苦労であった。約束通り、お前の罪を放免にしてやろう。だが、次に盗みで捕まったときこそ、その命はないと思え」


 王の言葉にシオンはしばらく反応できなかったが、せっかく拾った命を無駄にしてはもったいない思い、平静を取り戻して感謝の口上を述べた。


「お取り計らい、誠にありがとうございます」




 無罪放免となり、呪いの首輪も解除され、シオンは自由の身で王宮を出た。

 城下町を歩きながら、これからのことを考えた。


 無罪放免になったとはいえ、自分は盗みしかできない。

 生きていくためには、これからも盗みを働いていくしかない。


 そんなことを考えながら、城下町の端まで差し掛かっていた。

 この国では自分はもう存在が知られ過ぎている。

 盗賊として生きていくのに、こんな不便なことはない。

 どこかまだ行ったことのない国に行こう。


 シオンが町の外に出ようと関所の行列に並んだところで、風が吹いた。

 いや、風というよりも、衝撃波に近いほどの突風だった。

 それに風と一緒に空を巨大な黒いものが通り過ぎていった。

 しばらくして、地震のような地鳴りがする。


「竜だ!!」


 城下町の中心の方からそんな悲鳴が次々に聞こえてきた。

 シオンが慌ててそちらの方に視線を向けると、王宮と対峙するような形で、黒い巨大な竜が立っていた。


 アグナ=ヴァルム……


 匂いなのか、気配なのかわからないが、卵の存在を察知して、アグナ=ヴァルムはこの街に辿り着いたのだ。


 シオンの胸が痛んだ。


 違うんだ……

 アレはお前の卵じゃない……

 お前が命をかけるようなものじゃないんだ……


 アグナ=ヴァルムは強い。

 大陸最強の竜と言われるほどだ。

 だが、この国も強国だ。

 攻撃魔術も発達しており、魔術師団や騎士団も強い。

 いかなアグナ=ヴァルムといえど、国が総力を上げれば殺される可能性がある。


 シオンは気が付くと王宮に向かって走り出していた。




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2026年1月1日 08:00
2026年1月2日 08:00

卵から生まれるモノ 阿々 亜 @self-actualization

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