異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ

猛暑日の学校

「異世界からの勇者様方。我らの召喚に答えてくださり感謝する。異世界の勇者様方の知恵と力で、魔王に滅ぼされつつある我らの国を救って欲しい」


重そうな煌びやかな衣装を着て、頭も耳も首も指も目が痛くなるような金と宝石で飾り立てた、でっぷりとした男が、丁寧な言葉を高圧的に発するという器用なことをしてきた。


「さっそくだが、どのような素晴らしいスキルをお持ちか確認させていただきたい。そこにある水晶に触れて『ステータスオープン』と唱えてくれ」


「あの、我らの国とか魔王に滅ぼされつつあるとかだけでは分かりませんし、何も教えてもらえないのに無償で協力なんてできませんよ?協力できるかどうかは置いておいて、元の世界には帰してもらえるんですよね?」


異世界召喚という非現実的な状況だというのに、佐藤聖能さとうまさたかが高校一年生とは思えないほど冷静に発言した。


「……今は帰すことはできんが、我が国が力を吹き返せば、帰る方法も見つかるであろう。我が国は魔王に洗脳された周辺の国々から様々な攻撃を受け、徐々に弱体化している。どうか、其方たちの力で、魔王に洗脳された周辺国の人間を何とかして欲しい。浄化して正気に戻すか、魔王を倒して洗脳を解くか、其方らのスキルにより、今後のことを考えよう。其方たちがこの国を救ってくれて無事其方たちの国に帰るまで、好待遇を約束しようぞ」


(答えになってないな…帰れないことは確実なんだろう。これからどう動けばいい?教師1年目で23歳の俺が、教師として数分しか関わっていない4人の生徒の面倒を見なければならない…のか?)


清泉いずみはこの状況で、何をどうすることが最適解なのかを考えるが、相手は待ってくれる気はなさそうだ。



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事件は、関東にある某県某市にある某公立高校で起こった。



その日の気温は、今年一番の猛暑で、最高気温39度が予想されていた。

朝8時の時点で、気温は35度を超えた。



35度を超えた時点で、外で部活動をしていた生徒たちに、その日の校庭での部活動をすべて禁止すると校内放送をした。


生徒たちの中には、体育館や校舎内にスペースを見つけ部活動を続ける者もいたが、多くの生徒は体調管理を優先して下校した。



築70年を超える公立高校の専門棟にある職員室。

エアコンをかけても28度までしか室温は下がらず、ふくよかな教頭はハンドタオルで頭から顔、首の汗を拭っていた。


清泉いずみ先生、どうしたんでしょう。誰か連絡受けた方いらっしゃいませんか?」


毎日行われる教職員の朝礼で、教頭が全教員に尋ねたが、誰も手を挙げない。


「無遅刻無欠勤の清泉先生が連絡も無しにこの場にいないのは、余程のことかもしれませんねぇ…」


清泉いずみは今年の4月に新規採用になった、大学卒業したての新任教師だった。

新卒一年目の新米教師ではあったが、帰国子女で英語をネイティブのように話せるマルチリンガル5ヶ国語以上を話せるであったため、着任早々2年生の全クラスの英語コミュニケーションⅡと3年生の一部のクラスの英語コミュニケーションⅢと英語表現を担当していた。

清泉いずみの担当しているクラスの生徒たちの英語の総合成績は、確実に上昇傾向にあった。

英語を教える手腕だけでなく、日本人とアメリカ人のハーフで見た目が良いのに控えめな性格で礼儀正しく、担当しているクラスの生徒たちからだけでなく、大半の教師からの好感度も高かった。


「もう暫く待ってみても来ないようでしたら、ご実家に連絡してみましょうか?」


3年生の学年主任が教頭に提案する。


「そうしてもらえますか?ではどなたか、今日の1年生の英語の補習を…」


「もともと1年生の補習の生徒たちのコミュニケーション英語Ⅰの担当は林先生ですよね?林先生、責任を持って補習を行ってくださいよ」


2年の学年主任が1年生の英語担当の教師に強めに言う。


2年と3年の学年主任は、自分たちの学年の英語を担当する清泉いずみに、夏休み中に受験と就職対策の特別講習をやって欲しかったのに、出来が悪すぎる1年生の補習を林と1年の学年主任が清泉いずみに押し付けたことに腹を立てていた。

ごり押しが通ったのは、林が校長の愛人で、1年の学年主任が校長の遠縁だからだと言う噂があった。


「そう言われましても……」


林が唇を歪めて、ニヤリと笑う。


「自分の生徒に責任を持てないのなら、教師なんてやめればいいのに」


林と1年の学年主任のやり方に不満を持っている教師の1人がボソリと呟く。


林は顔を真っ赤にして大声で言い返した。


「新米のくせに3年生を受け持つなんて、分不相応なんですよ!教師生活25年のわたくしですら3年生を担当したことは1年間しかないのに!清泉いずみはド新人のくせに良い気になっているようだから、ベテランのわたくしでさえ手に負えない出来損ないどもの面倒を見させて、長く伸びた鼻を今のうちに叩き折ってやろうという、わたくしの愛の鞭なんですのよ!!」


職員室に静寂が訪れる。


「英語を話せない英語教師のくせに」

清泉いずみ先生は英語だけじゃなく、希望者にはフランス語やドイツ語、スペイン語に中国語も教えてるってのに」

「私はこの前韓国語の取説訳してもらいましたよ」

「わたしも。辞書無しでアラビア語のパンフレット訳してもらいました」

「何か国語話せるんですかねぇ?」

「なんで教師やってんですかね?」


ボソリ、ボソリと複数の教師から呟きが聞こえ始めた。

林が再度言い返そうとした時、教室棟から大きな音と悲鳴が聞こえてきて、職員室がある専門棟が揺れた。


「地震か!?」

「生徒たちは無事か!?」


何かが崩れるような音と共に振動が続いた。


職員室内にいた数人の教師が慌てて教室棟側の窓に駆け寄るが、砂埃で教室棟がよく見えなかった。


しばらくして砂埃が徐々に収まっていき、教職員たちの目に飛び込んできたのは、1教室分の2階から4階までが崩れ落ち、校舎全体がゆっくりと崩壊していく惨状だった。






202X年8月2日 ●〇ローカルニュース


先週7月28日、県内某市にある某公立高校で、突然校舎の一部が崩れ落ちた。

崩壊した校舎は、1年生が普通教室として使っていた。

この公立高校は少子化の影響で生徒数が年々減り続けており、崩壊した校舎には空き教室が多くあった。

崩壊の中心となったのは、校舎中心部の2階にある普段は使われていない教室で、この日は補習のため4名の生徒と1名の教員が使用する予定だった。

当日くだんの教員は出勤していなかったと同僚の教員たちが証言しているが、いつものように学校に出勤する姿が、自宅近くから当該高校の近くまで確認されている。

また4名の生徒たちも、補習のために家を出て学校に向かう姿が確認されている。

住民の証言と複数の監視カメラから確認が取れていると、捜査関係者からマスコミに発表があった。

当初は大半の教職員がくだんの教員について好意的な証言をしていた中で、一部の教員たちが正反対の証言をしていたことから、行方不明になっている件の教員は二重人格の人格破綻者で、校舎を爆破したのではというデマが流れたが、正反対の証言をした教員たちが件の教員を逆恨みしており、暴力的な発言を繰り返したため、この教員らを行方不明の教員の殺害目的で校舎を爆破した容疑で取り調べをすることになり、行方不明の教員の名誉のため早期の発表となったと推測される。

被害は重軽傷者52名と行方不明者5名。当日は40度の猛暑で、普段は校庭で部活動をしていた運動部の生徒が通常は使われていない教室で部活動を行っていたため、被害が拡大した。行方不明になっているのは、校舎崩壊の起点となった教室に補習のために登校していた教員1名に1年生4名。崩壊した校舎からは、爆弾らしきものが使用された痕跡が見つかり、原因を究明中。行方不明者の持ち物は教室と職員室から見つかっているが、5名に関する痕跡は見つかっていない。

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